レイコとシンジ-THE BLUE BLUES-後編- 5

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「よし、じゃあ慎治、バケツを顔の高さに捧げ持ちなさい、そして有難く、みんなの唾を頂くのよ。アハハハハッ、良かったわね大好きな唾を私たちみんなから貰えて!ハイじゃあみんないっくよおっ、せーの、ペッ!」ペッ!ベッ!ブッ!富美代が唾を吐くのと同時に裕子たちも一斉にバケツに唾を吐き込んだ。ピチャピチャッ、と黒い汚水を波立たせつつ白い唾があちこちに浮かんだ。「慎治、こんなもんじゃまだまだ足りないわよね、もっと一杯欲しいんでしょう?バケツの中真っ白になる位にさ、ペッ!」富美代に合わせるように裕子たちも次々と唾を吐き込んだ。四人掛りの唾だ、あっという間にバケツの中に唾が広がっていく。汚水に浮かんだ唾の島は次々と隣の島と繋がり融合し、大陸と化していく。程なくして黒い汚水は殆ど見えなくなり、バケツの中は白く泡立つ唾に覆い尽くされていた。ウフフフフ、裕子たちも一杯吐いてくれたじゃない、流石に四人いると仕事が早いわね。満足そうに頷くと富美代は慎治に命じた。「さあ慎治、汚い水を私たちの唾ですっかりきれいにしてあげたわよ。じゃあ・・・飲みなさい。一滴残さずね!」震える手でバケツを抱えながら慎治は中を覗き込んだ。最早完全に融合し、どれが誰の唾かも分からなくなった一塊の巨大な唾。細かい泡が少しずつ消えながら徐々に白から透明な液体に姿を変えつつある唾。女の子の口から吐き出された汚辱の液体、だがその唾の下にはトイレの床を拭いた雑巾の水、口にするなど考えたくもないほどの汚水が潜んでいるのだ。こ。こんなもの・・・こんなもの、飲めないよ・・・慎治は思いっきりバケツを引っ繰り返してしまいたい衝動に駆られた。ひ、引っ繰り返しちゃえば・・・フミちゃんが幾ら怒ったって後の祭り、もう飲ませようがなくなっちゃうよな・・・チラリと富美代を盗み見た。目線が合った瞬間、ゾクッと背筋に悪寒が走る。フフフ慎治、そのバケツを引っ繰り返したい?いいよ慎治、やってご覧よ、やる勇気があるならね。富美代は楽しそうに笑っていた。だ、だめ・・・引っ繰り返したりしたら、鞭で死ぬほど叩かれる。ううん、フミちゃんにだけじゃない、きっと礼子さんにも叩かれる・・・そう思っただけで背中がヒリヒリと痛くなってきた。フン慎治、もうおしまい?お、やるかな、バケツ引っ繰り返して男の子を見せるかな、て思ったんだけど、5秒も持たなかったわね。まあ予想通りだけどね。じゃあそろそろ始めて貰おうかしら、汚水処理場の芸を!「慎治、私たちも後が押してるんだからさ、早く飲んでよ。」ううう・・・そんなフミちゃん、これだけ恥ずかしい目に会わせておいて、その上、その上・・・だが思い出してしまった鞭の恐怖だけは絶対に嫌だった。もう全精神がボロボロ、崩壊寸前だった。もう鞭になんか・・・耐えられない・・・今鞭打たれたら、本当に発狂してしまいそうだった。

グウウウウウ・・・呻きながらバケツの縁に口をつける。ひんやりとした感触が走る。う、ううう・・・視界一杯に富美代たち四人の唾と汚水が広がる。ダメ見ちゃダメ聞いちゃダメ嗅いじゃダメ考えちゃダメダメダメダメダメ・・・必死で頭を空っぽにするとグイッとバケツを傾けた。底冷えするコンクリートの上でヒンヤリするほど冷たくなった水が口に流れ込む。富美代たちの唾も既に温度を奪われ冷え切っている。ガブゴブゴブ・・・喉を鳴らしながら一気に飲んでいく。これは水だこれは水だ唯の水なんだ・・・必死で自分に言い聞かせながら飲んでいく。埃っぽい、どこかザラついた舌触りがあるが、味というほどのものは感じなかった。大丈夫飲める飲める飲めるんだ・・・腹一杯に汚水が溜まってくるのを委細構わず、慎治は必死で飲み続けた。一気に飲まないと・・・止まったらもう飲めなくなっちゃう、そうしたら・・・鞭で叩かれる、もっともっと酷い目に会わされる・・・裕子たちが爆笑しながらシャッターを切りまくるのにも委細構わず、慎治は飲み続けた。余裕などどこにもない、こんな汚いものを飲むなんて、一気飲みしかできないよ、味なんか感じる前に飲み干さなくちゃ・・・苛められっ子のせめてもの悲しい防衛策のように、慎治は必死で飲み続けた。だが二リットル近い量、しかもビール等と違って極めて飲みにくい冷たい水だ。慎治は胃袋がどんどん膨れていくのを感じていた。うう、ううう・・・苦しい、もうお腹一杯だよ、もう飲めない・・・でもフミちゃんが許してくれる訳が無い、全部飲まなくちゃ鞭で叩かれる・・・汚水の屈辱と膨れ上がる胃袋、二重の責め苦に涙を流しながら慎治は必死で飲み続けた。長い長い時間の果て、漸くバケツから溢れてくる汚水は無くなった。「アブ、アプッウプウウウウッ・・・の、飲みました・・・全部・・・」逆さまになったまま空のバケツをガラン、と音を立てて床に放り出すように置くと、慎治は富美代たちを仰ぎ見た。「ウフフフフ慎治、よく飲んだじゃない。どうだった唾入り二色水のお味は?たっぷり楽しめた?」ツンツンと富美代は慎治の腹をブーツの爪先で小突いた。「アウップウッ、やべで・・・で、出ちゃう・・・」苦しげに慎治が呻くのを見た裕子が笑い出した。

「アハハハハッ!何よ慎治出ちゃうって!そんなに一杯飲んだんだ、ったく、よくあんな汚いものを吐く寸前まで飲み続けられたものねえ。ほーんと、慎治ったら完璧苛められっ子が板についてるわよねえ。」美幸も慎治の腹を指差して大笑いしていた。「ねえねえみんな、ちょっと見てご覧よ、慎治のポンポったらさ、何か膨れてない?お腹いーっぱい、おいしい物飲んで、もうお腹はちきれそうなんじゃない?」「どれどーれ慎治、ちょっと見せてみてよ」万理がしゃがみこみ、清掃員の青い上着と下に来ていたシャツを纏めてめくりあげた。「キャハハハハハッ!本当だ慎治ったら!お腹パンパンじゃない、見事に膨れ上がってるわよ!」入学依頼、連日苛め続けられたストレスでやせ細った慎治の不健康な腹、その生っ白い腹の胃のあたりがポッコリとタヌキのように突き出していた。ひ、酷いよそんな・・・自分たちで飲ませておいて・・・大笑いする富美代たち四人の真ん中で慎治は一人、トイレに正座したまま肩を震わせていた。腹の中はガボガボだった。あんな真っ黒な汚い水を、トトト、トイレの床を拭いた水を飲まされたなんて・・・しかも唾を一杯に入れられた、フミちゃんのだけじゃない、裕子さんのも美幸さんのも万理さんのも飲まされた・・・裕子さん?美幸さん?万理さん?何で僕、敬語を使ってるの、クラスメートだったのに、同い年なのに・・・うう、ううう、ううううう・・・ひ、酷い、酷い、酷すぎるよ・・・・・もう限界だった。肩が、全身がブルブルと震えだす。涙が鼻汁が流れ出てくる、ウグッヒック、ウエッ、抑えきれない嗚咽が漏れる。下を向いて必死で堪えようとする慎治を、富美代の残酷な瞳が見逃す筈が無い。「あっ慎治、もしかして泣いてるの?やーねー慎治ったら!折角みんなで旧交を温めてるのに泣くなんて、しょうがない泣き虫ちゃんねえ全く!」「なな、泣いてないもん、泣いてなんかいないも・・・ん、ヒック!」必死で虚勢を張ろうとした、だが嗚咽はもう抑えられない、満足に強がることすらできない。ウフフフフ慎治、いいわその反応、最高のリアクションよ。富美代の体内が熱く疼き、大輪のバラのように快感の花が一気に咲き開いていく。それでこそ・・・苛め甲斐があるっていうものよ、さあ見せて頂戴、慎治の情けないお顔を!思いっ切りバカにしてあげるから!「ウソ言うんじゃないわよ、これのどこが泣いてないって言うのよ、これのどこが、ほらみんなに見て貰いなさい、泣き虫慎ちゃんの恥ずかしいお顔を!」グイッと髪の毛を掴むと、富美代は慎治の顔を無理やり引き摺りあげた。吐き掛けられた唾と涙鼻汁涎にまみれた、この上なく情けない泣き顔に裕子たちは大はしゃぎだ。「アハハハハッ!泣いてる泣いてる、どうみたってこの顔、100パー泣いてるよ!」「あーあ、ぼうや、ばっちいお顔ねえ、お鼻とおよだも垂れてまちゅよう?」「ほーんとなっさけなーい!こんな情けない顔見たのって私、マジ生まれて初めてよ!」「キャハハハハハッ!ばっちちばっち、ああばっちい!慎治、お体の隅々までトイレと一体ね!」「言えてる言えてる!あ、もう慎治絶対触んないでよ!バイキンついちゃうからね!」「やーいやーい、泣き虫蛆虫便所虫!エンガチョ切った、鍵閉めた!」際限なく笑いながら囃し立てる裕子たち三人と富美代、人生を謳歌するかのように苛めの楽しさを満喫する四人に囲まれ、屈辱の谷間のどん底で慎治は肩を震わせ泣き続けた。ちちちちち、ちくしょう・・・ちくしょうううううう・・・肩の震えがどんどん大きくなっていく。心の中で溜まりに溜まったどす黒い怒りがマグマのように噴き出す。もう止められなかった。慎治は目の前が真っ暗になっていくかのように感じた。もうプライドも何もない、自我が一気に崩壊していく。

「う、ううう、ウエエエエン、ウエエエエエエエエエンンンッ!ちち、ちちちくしょおおおおおおおうっ!みみみ、みんなして、みんなして僕のことをバカにしやがってえええええっ!ウエエエンッウエエエエエエエエエンッ!畜生ちくしょうちくしょうううううううっ!」慎治は突然、大声を張り上げながら号泣し始めていた。慎治の絶叫に一瞬、何事が始まるのかと身構えた富美代たちだが慎治が号泣を張り上げるのを見て再び大笑いした。「アハハハハハッ!泣ーいた泣いた、泣いちゃった!」「しーんじちゃんが泣いちゃった!」「べーんじょむーしが泣ーいている!」全く動揺も同情もなく囃し立てる裕子たちに煽られ、慎治はどんどん幼児退行していく。ガバアッ、突然慎治は仰向けに寝転がった、そしてジタバタジタバタ、と両手両足を激しく振り回しながら泣き喚いた。「ウギッウギイイイイイイッ、ウッビエエエエエエエエエンッッッ!!!」もう言葉すら出ない、ギャーギャーと獣のような声で慎治は泣き喚き続けた。トイレの床に、しかも強制されてではない、自ら寝そべっている、ということすら認識できなかった。余りに無様な、三歳児以下のリアクションに裕子たちはもう大うけだった。「アーッハッハッハッ!もう最高、慎治ったらもう!笑かしてくれるんだから!」「アハッハッハーーーーーッ、ああ苦しい、もう笑いすぎておなかが痛いよおう、分かった慎治、私たちを笑い殺すつもりね?アハハハハッ、もう本当に死んじゃいそうよ!」「ああもうほんと傑作!このポーズ見てよもう!慎治、私、君のことは一生忘れないわよ!」三人に混じって大笑いしていた富美代だが、やがて満足そうに顔を上げた。「どうみんな、最高だったでしょう?慎治ったら本当に笑わせてくれるでしょう?じゃあ私もリハの時間だし、もう十二分に楽しんだと言うことでそろそろ行こうか?」未だ泣き続ける慎治を放り出したまま、心行くまで苛めを堪能した四人はトイレを後にした。だが慎治は富美代たちが行ってしまったのにも気付かず、一人トイレの冷たいコンクリートの床にゴンゴン頭を打ちつけながら泣き続けていた。

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