レイコとシンジ-リベンジ-後編- 3
先に動いたのは慎治だった。全身に引っ掛けられた富美代のおしっこは、最初こそ富美代の体温と同じ温もりを持ち、慎治をむしろ温めてくれる温水だったがとっくに冷め切っていた。冷め切った富美代のおしっこは、今では慎治の体の表面から容赦なく気化熱を奪い、排泄した当の富美代が去った後も尚、慎治のことを今度は寒さで苛め続けていた。ブルッと慎治の全身が悪寒に震えた。カタカタカタカタ・・・気がつくと奥歯が寒さに鳴っていた。ふ、拭かなくちゃ・・・せめて体を、富美ちゃんのおしっこを拭かなきゃ、風邪ひいちゃう・・・だが体を拭くタオルなど、どこにもない。拭くもの、なにかないかな・・・あるものは唯一つ、自分が持っている服だけ、朝子のおしっこでびしょびしょになっている服だけだった。こ、こんな、こんなもので・・・ふ、拭くの・・・だが他に選択肢は無い。寒さに震えながら慎治は手に持った服をギュッと絞った。ボタボタ・・・服から大量の朝子のおしっこが絞り出され、地面に垂れていく。絞り出されたおしっこの一部は慎治の手を伝って垂れていく。ち、ちくしょう・・・な、なんで・・・お、おしっこを・・・他人のおしっこを絞らなくちゃいけないんだ・・・ち、ちくしょう・・・慎治は悔し涙を洩らしながら絞り続けた。
漸く絞り終えた服で自分の顔を、髪を、体を拭く。冷たく湿った服で拭いていると、まるで朝子のおしっこを自分自身の手で顔に、髪に、体にすり込んでいるようだった。いや、それだけではない。排泄されてから時間がたった二人のおしっこはアンモニア臭い臭気を増しつつあった。自分の全身から立ち上る富美代のおしっこの臭いは徐々に強くなる臭いだからまだ余り感じずに済んでいたが、服にたっぷりと浸み込んだ朝子のおしっこの臭いはそうはいかない。真っ先に顔を拭こうと服を顔に近付けた時、ツンと悪臭が鼻をついた。すぐに分かるおしっこの臭い。自分のものと余り変わらない臭い。自分が他人のおしっこまみれの服で顔を拭こうとしている、と否応なしに実感させる臭いだ。余りの嫌悪感に吐き気すら感じる。なんとかにおいを感じないようにと息を止めながら顔を、体を拭くがおしっこの臭いは鼻、というより直接脳に浸み込んでくるようだ。いくら息を止めても、必死で考えまい、としても富美代と朝子のおしっこの臭いは慎治の嗅覚から決して立ち去らなかった。そしてふと気づくと、折角絞った服に今度は富美代のおしっこがしみ込み、また濡れてきていた。もう一回服を絞る。チョロチョロと富美代のおしっこ、いやおそらくは富美代と朝子のおしっこがミックスされた液体が搾り出される。絞り終えた服でもう一度全身を拭く。富美ちゃんと朝子のおしっこを全身にすり込んでいる・・・漸く全身を拭き終えた慎治の手がワナワナと震える。次に何をしなくてはいけないか、一つしかない。服を着ること。朝子と富美代のおしっこがたっぷりとしみ込んだ服を着ること。そしてクラブまでの道のり、一時間はかかる道のりを二人のおしっこまみれの服を身に纏いながら歩き続けねばならないのだ。ほ、本当に・・・こ、これを・・・き、着るのか???慎治は二人のおしっこが浸み込み、重く湿った服を見続けた。だが寒さは刻一刻と増している。もう限界だった。グッと吐き気を堪えながら一気に服に頭を、腕を通す。冷たく冷え切った服の冷たさにゾクッとくる。だ、だめ、か、考えちゃ・・・い、一気に着なくちゃ!!!必死の形相でブリーフとズボンを履き、スニーカーを履く。ビチャッ・・・スニーカーの中に溜まっていた朝子のおしっこが内底のクッションからしみ出る。ぐ、グエエッッッ!!!限界だった。慎治はその場に突っ伏し、激しく嘔吐した。
一方、慎治も状況は似たようなものだった。全身が濡れてはいない分、慎治よりいくらか寒さはマシ、とは言っても単なる比較の問題だ。裸でいられる時間は限られている。横で慎治が全身を拭きだしたのにつられるように、慎治も作業を開始しようとした。でもどうやって?おしっこではない、慎治は全身馬糞まみれだ。服も馬糞まみれだし、そして仮にその服で体を拭いたところでどの道、着ていける服はそれだけなのだ。何の解決にもならない。慎治は呆然と自分の手を見た。どう考えても方法は一つしかない。手で、自分の素手で全身と服にこびりついた馬糞を可能な限りこそぎ落とすしかない。う、嘘だろ・・・ば、馬糞を・・・て、手で?いじるの???慎治は余りのことに全身を怒りでワナワナと震わせていた。だが慎治をこの地獄に突き落とした朝子たちは既に帰ってしまっている、抗議の声をあげる相手すらいないのだ。慎治がここでいくら絶叫しても、朝子たちの耳に届きすらしない。そして寒さは刻一刻とつのっていく。ち、ちくしょぅ・・・慎治は弱々しく呪いの言葉を呟きながらのろのろと手を動かし、まず胸にこびりついた馬糞に触れた。未だ乾いていない馬糞の冷たく、ねっとりとした感触が堪らなく気持ち悪い。粘土、というには柔らかすぎる、やや固めに練った泥、といった感触だ。必死でこそぎ落とし、指についた馬糞をグラウンドの芝になすりつけるように拭く。胸、腹、腰・・・慎治は必死で作業を続けた。だが水もなしで拭こうとしても限界がある。やがて体中、まだまだ十二分に汚いのに殆ど取れなくなってしまった。いくらこそぎ落とそうとしても、もう馬糞は落ちない、却って自分で自分自身の体に擦り込んでいるようなものだった。ち、ちくしょう・・・も、もう駄目なのかよ・・・慎治は体を諦め、服に取り掛かった。だがこっちはもっと酷い。富美代に踏み躙られ、慎治の服には馬糞がたっぷりと擦り込まれた状態だ。手できれいになどできるわけがない。精々、大きな塊を落とすのが関の山だ。必死で作業を続けたが、直ぐにどうしようもなくなってしまった。慎治は血走った目で手に持った服を凝視した。く、くそ・・・こ、これを・・・着ろっていうのかよ!!!あ、あんまりだ・・・あ、朝子は、朝子も富美代もこうなっちゃうのを知ってて、知っててやったんだ!あ、あんまりだーっ!!!ぜ、ぜったい、絶対着るもんか!!!だが慎治の誰にも気付いてさえもらえない情けない決意など、寒さの前では全くの無力、あっという間に覆されてしまう。ヒュゥッ・・・風、そよ風程度だが風が吹き、一層寒さがつのる。横では慎治が体を拭き終え、のろのろと富美代と朝子のおしっこまみれの服を着始めている。ブルッ・・・だ、だめ、もう我慢できない・・・寒さに歯をガチガチ鳴らしながら慎治は一気に、馬糞まみれの服に頭を、腕を通していった。草食動物である馬の糞は人間のに比べ、遥かに臭いは少ない。しかも人間の感覚で嗅覚は最も鈍感かつマヒしやすい感覚だ。実際、全身を馬糞まみれにされた当初暫くは悪臭に苛まされていたものの、少しは鼻が慣れたのか、悪臭は苦痛というレベルではなくなっていた。しかし服を着て、新しい馬糞がプラスされるともう駄目だった。擦り込まれ、広げられた分、悪臭は体からの臭いより服からのものの方が却ってきついかもしれない。ガ、オヴェーーッッッ!!!慎治も耐え得る限界を超えてしまった。吐いても吐いても吐き気はおさまらない。いや自分のゲロの臭いと馬糞の臭いがミックスし、更に横で吐いている慎治のゲロの臭いも加わり、破壊的なレベルに達した悪臭が更なる吐き気を呼ぶ。だ、だめ、こ、ここにいたら・・・慎治は必死で立ち上がり、ふらつき、ゲロをそこここに撒き散らしながら歩いていった。
やがて胃液すら吐き尽くした二人はよろよろと立ち上がった。「か、帰ろう・・・」「あ、ああ、か、帰ろう・・・」二人はとぼとぼとグラウンドを出て人気のない道を歩き始めた。道に出たところで慎治は後ろを振り返った。このグラウンドにだけは二度と、絶対にこないぞ・・・だが内心分かっていた。礼子たちがこのグラウンドでの遊び、大いに気に入ったに違いないことを。そして慎治たちがどんなに嫌がろうが泣き喚こうが、これから先、何度も何度もここに連れてこられ、今日同様、死ぬほど鞭打たれ、引き摺り回され、何度も何度もおしっこを飲まされることを。そのことが容易に想像できるだけに、慎治たち二人の絶望は深かった。だが、今は泣いている時ではない。二人は重い足を引き摺り、歩き続けた。途中、どこかで公園でもあれば体を洗おう・・・二人はそう思っていたが、そもそも人気のない田舎で公園などある筈がない。歩いても歩いても体を洗える水道はない。願いも空しく歩き続けた二人にやっと救いの神が現れた。乗馬クラブの案内の看板が道端に立っていた。「ああ、あと少しだね・・・」「うん・・・早く、とにかく早く体を洗いたいよ・・・」微かな希望に二人は歩みを速めた。そしてやっと現れた乗馬クラブ入口の看板。こ、ここを曲がればクラブハウスまでもうすぐだ!やっと、やっと体を洗える!だが喜び勇んで角を曲がった二人が見たものは、路肩に停車している見慣れた二台のランクルと、その周りで楽しそうに談笑している6人の男女だった。「やあ、慎治君たち、遅かったじゃないか!お嬢さんたち、お待ちかねだよ!」良治の夕暮れ時には相応しくないほど明るい声が響いた。「そうだよ全く!みんな待ちくたびれてブーブー言ってたよ。駄目だなあ、女の子を待たせちゃあ!」負けず劣らず爽やかに大声を出す亮司の後ろから玲子たち四人が近づいてきた。全員、既に着替えていた。シャワーを浴びて汗を流し、ゆっくりと寛いでいかにもさっぱりとした礼子たちと、全身ボロボロで疲れきった、生気を失った慎治たち。しかも慎治たちは糞尿と汗にまみれ、凄まじい悪臭を放っているのだ。う、羨ましい・・・ぼ、ぼくたちも早く体を洗いたい・・・
「遅かったわね慎治・・・ウッワーッ!クッサーイッ!」玲子の大声に笑いながら礼子も近づいてきたが、慎治たちの傍までくると大袈裟にのけぞった。「ワッ!本当だ。二人とも全く、臭いったらありゃしない!なんなのよあんたたち、その臭いは!まるでホームレスみたいじゃない、ちょっと近づかないでよ、私まで臭くなっちゃいそう!」富美代と朝子も近づいてくるなり、キャァッと声をあげて飛びのいた。「うわっ、、、なにこの臭さ!慎治、あんた全身、おしっこ臭いじゃない!こんな臭い撒き散らしながら歩いてきたわけ?」慎治の目から押さえきれない悔し涙が溢れた。「そ、そんな・・・お、おしっこ、おしっこひ、ひっかけたのは・・・ふ、富美ちゃんじゃないか!そ、それを、じ、じ、自分で、自分で引っ掛けておいて、く、臭いだなんて・・・あ、あんまりだ、あーんまりだーっっっ!!!」「うるさいわね慎治、確かに私、おしっこ引っ掛けたわよ。だけどそのままで歩いて来い、だなんて言っちゃいないわよ?どこかで洗ってくればいいでしょ!水道探すなり、何もなかったらそれこそ川で洗ったっていいじゃない!おしっこまみれで帰ってきたのは慎治の勝手でしょ、全く!平気でおしっこまみれでいられる変態のくせして私を逆恨みするだなんて、慎治、あんた本当に根性腐ってるわね!ペッ!」渾身の軽蔑を込めて吐き出された富美代の唾が慎治の鼻先を直撃した。「ハッハッハッ!慎治君、君の負けだな、その格好じゃ何言ったって説得力ないよ!第一、女の子に唾引っ掛けられるなんて、男の一生の恥だな!」良治は楽しそうに笑いながら頷いている。朝子も大きく頷いた。「本当よねー。慎治、私も慎治には心底驚かされるわ。まっさか、お馬ちゃんのうんちまみれのままで帰ってくるとわねー。いくらあんたでも、流石にどっかで体、洗ってくるとは思ったんだけどねー。うん、凄い、あんたは偉い!感動した!ペッ!」慎治の額から朝子の唾がゆっくりと頬を伝っていく。「うーん、ま、慎治君、馬糞まみれで歩き回った挙句に女の子に唾引っ掛けられてたんじゃ、君、人間廃業だよ。折角こんなに可愛い女の子たちが付き合ってくれてるんだからさ、お兄さんはもう少し、自分を大事にすることをお勧めするよ!」な、何が自分を大事にだ!亮司の過剰なほど爽やかな、偽善に満ち溢れた言葉が慎治の踏み躙られたプライドを更に痛めつける。だが、未だ、未だ終わってはいなかった。
