レイコとシンジ-砂漠に逝く-中編- 1
「OK、じゃあ本日のメインイベントと行こうか!さあ、二人とも、少し気合をいれて走ってもらうわよ!白馬名物、体育館一周レースの始まりよ!」礼子の掛け声に慎治たちは思わず目の前が真っ暗になってしまった。体育館一周レースだって?そんな、ただ歩いて一周するだけだって、死ぬほど辛いのに・・・だが、慎治たちが哀願する暇すらなく再びハミを咥えさせられ、四つんばいにさせられた。礼子が背中越しにまたがる気配がした次の瞬間、ズシリと礼子の体重が慎治にのしかかった。「ぐ・・・ぐうっっっ」僅かな休息を許されたとはいえ、手も脚も乳酸と疲労がたっぷりと蓄積していた。礼子が鐙に両足を乗せ全体重を余す所無く慎治にかけ、苦痛を更に増加させた。手、脚だけではない。礼子の全体重をかけられ、なけなしの力を振り絞って必死で腹筋、背筋を緊張させていないと今にも腰がへし折れそうだった。全身で苦痛を噛み締めている慎治に委細構わず、礼子は手綱をグイッと引き軽く鞭を入れ、慎治をスタート地点に進ませた。横を見ると慎治も同様に玲子を背に乗せ、自分と横一線に並ばされていた。
「慎治、分かっているね。このレース、必死で走るんだよ。もし負けたら・・・罰ゲームを覚悟しておくことね!」「慎治、天城の言ったこと、聞こえた?勿論、慎治にも、負けたら・・・き・つ・-・い、罰ゲームをプレゼントするからね!」慎治たちは二人とも、恐怖に身がすくむ思いだった。昨日の鞭の痛みが背中に、尻に、ついさっき打たれたばかりかのように、リアルに蘇ってきた。負けたら、どんなひどい目にあわされるか・・・「玲子、準備OK?よし・・・じゃ、私の鞭でスタートね。レディ、、、GO!」慎治の尻がピシリと打ち鳴らされ、二頭の人間馬のつらいレースが始まった。スタートダッシュは慎治の方がやや勝っていた。「ほら、慎治、先行逃げ切りよ!」ピシッ!ピシッ!と礼子は立て続けに慎治の尻を鋭く鞭打ち、更に容赦なく、既に傷だらけになっている慎治の脇腹に思いっきり拍車をかけた。「びっっっびたいぃ゛゛゛゛・・・」慎治の口から悲鳴らしき声が漏れた。礼子は一切構わず、鞭を振るう手に更に力をこめた。ビシッ!ビシッ!と鋭い鞭音が間断無く響いた。慎治は必死で手足を動かし続けた。背中にのしかかる礼子の体重はそれだけで十分に拷問と言えるほどだった。体育館一周は精々100メートルしかない。走れば鈍足の慎治たちでも20秒とかからない。だが、馬にされ礼子の重みに耐えながらでは、一歩一歩は精々30センチ程度しか進めなかった。慎治たちにとって、僅か100メートルの体育館一周が1000メートル以上を全力で走らされているようなものだった。
第一コーナー、第二コーナー、、、あ、あっちまで・・・こんな長い直線が・・・ビシッ!!ヒッヒーっっっ!!バックストレートが漸く終わる、、、第三コーナー、、また曲がりにくいコーナー、、ギリッ!右脇腹を拍車で蹴られた・・い、いたい・・・コーナーから少し膨らみましたか!?す、すみません・・・すぐ修正するからもう蹴らないで・・・第四コーナー、、ホームストレート・・・ああ、あそこまで、、、あの白線まで行けば休める・・・慎治はどこに・・・右後ろを振り向くと、5メートル近く差をつけている。と、「何、勝手に後ろ見てるのよ!」ビシッ!バシッ!ピシッ!と凄まじい鞭が叩き込まれた。ヒーっご、ごめんなさい・・・でも、大丈夫、なんとか逃げ切れそうだな・・・罰ゲームだけはなんとか助かりそうだな・・・「いっちゃーくっ!!」鞭を片手に高く掲げながら、礼子がゴールインした。グイッと手綱が引かれ、静止させられるや否や慎治は思わず肘をつき膝を折り、礼子を乗せたままその場にへたりこんでしまった。「なに勝手にへたり込んでるのよ!でも、まっいいか・・慎治、一応勝ったんだからね。」慎治がへたり込んでいる横に、ようやくゴールインした慎治もへたり込んできた。「玲子、遅かったじゃない。そのお馬、駄馬ちゃんね!」「本当よ、全く。スタートダッシュが効かないから、やばいかな、とは思ったんだけど、差し足も全然なんだから。」玲子は慎治の背からゆっくりと降りると、床で喘いでいる慎治の頭をブーツで踏み躙りながら睨み付けた。「慎治、言ったはずよね。負けたら、きつい罰ゲームが待っているって。覚悟はいいわね?」そ、そんな、、、ゆるして、、、慎治は涙目で必死で玲子を見上げ、許しを乞うた。「駄目よ、言ったはずよね。負けたらひどいって。大体、矢作にあんな大差を付けられるなんて、私の教育が甘かったっていうことじゃない?慎治は私に恥をかかせたのよ。その償いはしてもらうわよ!」明らかに怒気をはらんだ玲子の冷たい声は慎治を震え上がらせるに十分だった。お願い、許して・・・誰か助けて、なんでもするから・・・
慎治の願いは聞き届けられた。但し、最悪の形で。「慎治、そんなに罰ゲームはやだ?」礼子の思いがけない言葉に慎治は思わず、反射的に飛びついてしまった。「や、やだ、、、絶対やだやだ・・・なんでもするから許してょーーー!!!」「ふーん、そんなに罰ゲームが怖いんだ。玲子も鬼ねえ。慎治ったらこんなに怯えちゃって、可哀想じゃない。じゃ、こうしよう。慎治、もう一回だけ、チャンスをあげる。」その声に合わせるように玲子が慎治の頭を解放すると、礼子は慎治の髪をつかみ、引きずり起こした。「いい、慎治、もうワンレース、勝負してあげる。これでまた負けるようなら、、、もう助けてあげないからね!」「も、もう、ワンレース!?ま、また走らされるの???」「ふ≠Aあ、そう。別にいいのよ。慎治がもう一勝負、リターンマッチにチャレンジしたい、ていうならつきあってあげるけど、慎治が嫌なら別に私はいいのよ。じゃ、罰ゲーム確定ね?」罰ゲーム、礼子の一言は慎治を心底怯えさせるに十分だった。少しでも希望にすがりたかった。それが礼子の巧みな罠であることに頭をめぐらす余裕など、慎治には全くなかった。罰ゲームからなんとか逃れたい、、、それが慎治の意識の全てを支配していた。「お、おねがい・・・もう一回走らせて・・・今度は絶対勝つから・・・お願い、走らせて!!!」慎治にとっては目の前が真っ暗になるような展開だった。「そ、そんな・・・折角勝ったのにもう一勝負?おねがい、やめて・・・僕、勝ったんだから、約束どおり許してよ!!!」慎治は思わず、金切り声を上げて抗議した。ピシャッと礼子の鋭い平手打ちが慎治を沈黙させた。「慎治ったら、相変わらずうるさいわね。あんた、こんだけ必死で川内がお願いしてるのよ?もう一回チャンスをあげないと、可哀相とは思わないの?ねえ、玲子もそう思うでしょ?」「そう、礼子の言うとおりよ。ほらご覧よ、慎治、泣いてるよ?それを駄目だなんて、矢作、あんたサドッ気あるんじゃない?それに第一、考えてみたら私も礼子もこの勝負、別に一回勝負、て言った覚えはないわよ。ねえ、礼子?」「そういうこと。じゃ、慎治、二回戦行くよ!!」
慎治たちは再び、スタートラインに駆り立てられた。「さあ慎治、望み通りもうワンレースよ、だけど、これがラストチャンスだからね。もしこれで今度も負けたら・・・速攻罰ゲーム行きだからね!」玲子の宣告に慎治は思わず震え上がってしまった。何とか勝たなくちゃ勝たなくちゃ勝たなくちゃ・・・負けられない負けられない負けられない・・・慎治の心の全ては罰ゲーム、即ち玲子の鞭への恐怖に支配されていた。それに対し、慎治のモチベーションは明らかに劣っていた。折角つかんだ、と思ったささやかな勝利を剥奪され、半ば呆然としていた。「行くわよ、ハイ!」今度は玲子がピシッと鞭を鳴らし、二戦目がスタートした時、慎治はまだ心の準備が何もできていなかった。「慎治、なにボケッとしてるの!!!」ビシッ!バシッ!と礼子が怒りの鞭を浴びせた時、慎治は既に先行した慎治に23歩のリードを許していた。や、やばい、、、早く追いつかなくちゃ・・・負けちゃう・・・慎治の頭にも罰ゲームの恐怖が甦った。慎治は必死で差を詰めようとした。だが、今度は慎治も必死だった。負けたら終わり、、、その恐怖が慎治を駆り立てていた。差が詰まらない・・・もう第三コーナーだ、、、、「慎治、なにトロトロしてるの!!早く追いつきなさい!!」ギャッ!!!や、やめて、、、走るから蹴らないでーーー!礼子に力まかせに連続して拍車で蹴り上げられ、更に鞭を打ち込まれ、慎治は必死で力を振り絞った。だが、一足先に慎治が第四コーナーを曲がり終え、ホームストレートに差し掛かった。「ほら、慎治、ラストスパートよ!ハイハイハイ!!!」玲子が狂ったように慎治を鞭打ち、連続して拍車をかけた。慎治の脇腹、尻から霧のように血飛沫が飛び散った。「ぎっぎびえあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」訳のわからない悲鳴を上げ、鞭、拍車の苦痛と限界を訴える心臓と肺の苦痛、疲れた、という感覚さえなくなってきた腕と脚、すでに腹筋と背筋の力は殆ど失われ、まともにのしかかる玲子の全体重できしむ背骨と腰の苦痛・・・全身がバラバラになりそうな苦痛に意識を引き裂かれそうになりながら、慎治は辛うじてゴールインした。振り向くと、少し遅れて慎治が今、ゴールインするのが見えた。か、勝った???よかった・・・これでなんとか助かった・・・「礼子、今度は私の勝ちね!」ゴールと同時に精魂尽き果てて倒れこんだ慎治の背中からおりながら玲子が勝ち誇った。「全く、玲子ったらさっきと追い込み方が全然違うんだもん。」「まあね。連敗っていうのは冴えないでしょ。でも、これで一勝一敗ね。けりはどうつける?やっば、タイで終わり、なんて中途半端は嫌よね?」「そうね・・・ねえ、じゃあ、次は趣向を変えたレースにしない?」「趣向を変えたレース?まーた、なにかとんでもないいじめを考えたのね、このいじめっ子!」「何よ、玲子にだけはいじめっ子なんて言われる覚えはないわよ!?まあ、それはいいとして、次のレース、ヒントあげるわね。今までの二戦、要するにスピード勝負でしょ?大体レースって、スピード系ともう一種類に分けられるよね?」「・・・わかった・・・要するに礼子、持久力勝負をさせる気ね・・・うん、分かった!慎治たちをぶっ倒れるまで走らせるつもりでしょ?そうやって、残ったほうが勝ち、違う?」「ビ・ン・ゴ!やっぱ、流石いじめのプロ、直ぐわかったわねー?」「なにがいじめのプロよ、この悪魔!でも、それ最高。実は私もそうしようかなあ、とは思ってたんだ。ね、慎治、あんた達もこのままドローじゃ、納まんないでしょ?」
