SPITMEさんの作品「レイコとシンジ」【1】深まる闇-3

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一番最後に入った礼子がドアの鍵をかけた。暫く,室内を沈黙が支配した。やがて、ふと視線を交わした玲子達が各々のバッグを開け,何かを取り出した。慎治には暫く,玲子が何を取り出したのか。分からなかった。(なに、あれ?黒いロープ?)だが、二人がこちらに向き直った時,漸く想像がついた。まさか・・・鞭!?!?慎治は本物の鞭を見るのは生まれて初めてだった。だが、礼子達が取出したのは,紛れもなく、映画や小説の中でしか見たことのない鞭そのものだった。牛や馬を追い立てるためか、あるいは拷問のためにしか使われない道具。他人に苦痛を与え,屈服を強いるためだけに使われる道具。支配者が意にそぐわぬ者を懲戒する道具。それをこの、音が外に漏れない視聴覚室で礼子達二人が取出した。その鞭が何に使われるのか,説明の必要など無かった。その鞭が自分達に襲い掛かることは火をみるより明らかだった。

「二人とも,服を脱いで裸になりなさい。」興奮を無理やり抑えた声で礼子が命令した。「そ・そ・そんな、二人とも冗談はやめようよ…む、鞭だなんて…」藁にもすがる思いで、慎治は必死に哀願しようとした。その瞬間,玲子の右手が弧を描いた。風を切る音が聞こえた次の瞬間,慎治の足元の床がパシッと乾いた音を立てた。ヒッと思わず悲鳴をあげながら飛び上がる慎治に,玲子は冷たく言い放った。「聞こえなかった?礼子は服を脱げって言ったのよ。哀願しろ、だなんて誰も言ってないわ。」「それとも二人とも,無理やり脱がされる方がお好みなのかしら?玲子と私を相手にして,勝ち目がないことは十分、分かっているでしょ?大人しく言うことを聞いておくのが身のためよ」鞭をしごきながら礼子が二人を凄絶な笑みを浮かべながら見つめた。

もはや慎治たちに逆らう勇気はなかった。二人はのろのろと服を脱ぎ始めた。クラスメートの女の子に鞭打たれるために。鞭打たれたことがなくとも、死ぬほど痛いであろうことは容易に想像できた。二人が裸になると、玲子が近づいてきた。玲子は手近の椅子を二つ、3メートル程度離して並べ,そのまま、椅子を前方に倒し,背もたれの先端を床につけ、ちょうどピラミッドのような形にした。礼子が慎治の腕を掴み,片方の椅子に引き立て、宙に浮いた椅子の足の間に慎治を立て膝に膝まづかせた。更に慎治の体を前方に倒させた。慎治はちょうど,足の付け根をピラミッド状になった椅子の頂点,座部の縁にあてて体を折り曲げさせられた。腿を椅子の座部の裏側に,腹を背もたれの裏側に密着させられ,更に腕は背もたれの表側に回させられた。顔は床についた、ひどく窮屈な姿勢だった。礼子達二人は用意してあったロープを取り,慎治の手足をそのまま椅子に固定した。足首を椅子の足に,膝を椅子の座部に,二の腕は背もたれの支柱に,そして手首は両手首を重ねて縛った上で背もたれに固定された。土下座とも,尺取虫とも言いがたい珍妙な格好だった。床には頭と膝だけしかつかず、ひどく苦しい姿勢だった。だが、横で見ていた慎治にも,この姿勢の意味するところはすぐに分かった。

慎治の背中は完全に無防備にさらけ出されていた。尻のあたりは宙に浮いた椅子の足が邪魔になるものの、まっすぐに鞭を振り下ろせば、何の障害もなさそうだった。何より,ああもがっちりと椅子に縛り付けられては,手も足も,鞭をガードすることなど、まったく出来そうになかった。恐怖に震える慎治に,礼子が近づいてきた。「慎治,あなたの順番は後よ。そこに正座して,川内がどういうめに会うかをじっくりと見てなさい。その後,慎治のこともたっぷりと鞭打ってあげるからね。」残酷な仕打ちだった。慎治は取りあえず,すぐに自分が鞭打たれるわけではないことに一瞬ほっとしたが、とんでもない誤解だった。目の前で鞭打ちを見せ付けられ,しかも自分もまもなく同じ目に会わされる,恐怖をじっくりと味会わされる分,慎治より余計に悲惨な立場かも知れなかった。最早逃げ場はどこにもない。椅子に縛られ,逃げることも鞭をよけることもできない。ましてここは視聴覚室だ。防音は完備している。二人の悲鳴を聞きつけてくれる人も絶対にいない。

「さあ、準備OKね。二人ともお待ちどおさま。たっぷりと私たちの鞭をご馳走してあげるわね。慎治,お前には私の鞭をご馳走するわね。」軽く床を打ちながら,玲子は慎治の前に来た。「ひ・ひ・ひどい…俺たちが何をしたって言うんだ・・・鞭で叩かれるようなことは、何もしてないじゃないか・・・」慎治は涙声で必死で訴えた。苦しい姿勢から必死に首を持ち上げ,礼子を見上げた。床すれすれから見上げる玲子は、遥か高みから慎治を見下ろしながら鞭をしごいていた。玲子と慎治の目線の差,自然に見下ろす者と必死で見上げる者,視線の差がそのまま、二人の身分の差を表していた。慎治にできる唯一のことは、玲子に、自分を虐待する当の玲子にすがり、僅かな慈悲を乞うことだけだった。だが、玲子にそんな慈悲など,ひとかけらもなかった。却って,鞭打つ前から,鞭を見せただけで慎治がこんなに必死で、泣いてすがってきている、そのこと自体が玲子の興奮を一層高めるだけだった。「そうよ。別に矢作も川内も,鞭で叩かれるようなことは何もしていないわよね。でもね、そんなことは何の問題もないの。あなた達を鞭打つのは悪いことをしたからじゃないわ。私たちに少しでも逆らったら,どういうめに会うかを骨の髄まで叩き込んであげるためなんだから。」礼子が後を引きとった。「鞭の後、あなたたちがどういう態度になっているか、楽しみね。つまらない意地もプライドも,粉々に打ち砕いてあげる。二度と,私たちの顔をまともに見れないくらいにしてあげるわね。さあ、前置きはこれくらいでもうじゅうぶんでしょ?二人とも,覚悟はいいわね?玲子,早くはじめようよ!!」

「OK、慎治,IT'S A SHOW TIME!!」玲子は2.3歩下がって間合いを確保すると、やおら鞭を高く構えた。慎治は思わず恐怖に身をすくめ、目をつぶった。一瞬の沈黙の後,不意にヒュンッと風を切る音がした。次の瞬間,慎治の背中のちょうど真ん中,左腰から右のわき腹あたりに焼け火箸を押し付けられたような激痛が走った。「ひえっ!」理性などではこらえようのない痛みだった。礼子にベルトで打たれた時も余りの痛さに泣き叫んだ。だが、玲子が振るう,本物の鞭の痛みは礼子のベルトの比ではなかった。悲鳴を押し留めることなど不可能だった。焼け火箸の様な熱さはジンジンと染み入るような痛みに変わっていった。だが、ゆっくりと痛みをこらえる暇など無かった。フォアハンドで第一撃を振り下ろした礼子はそのまま、今度はバックハンドで強烈な一撃を振り下ろしてきた。再び,風を切る音が聞こえた。思わず慎治が恐怖に身を固くした瞬間,先ほどとは逆から,今度は右腰から左肩にかけて激痛が走った。「ぎえっ---」慎治の悲鳴は早くも,声にならなくなっていた。慎治は必死で体を起こして逃げようとしたが,がっちりと縛られている上に体の重心が浮いてしまっているため、力の入れ様もなかった。僅かに首をのけぞらすのが限界だった。礼子は構わず,立て続けに鞭を振り下ろした。甲高い風きり音と慎治の背中が上げる乾いた音が連続して響いた。「ひっ!ぐえ、お・ぉ・ねが・が・や・や・めて..ゆるし・ぎえー!=I=I」慎治は必死に声にならない悲鳴を張り上げた。背中全体が燃え上がるような痛み,痛いのか熱いのかすらわからない位の苦痛に覆われていた。絶叫を抑えることなど、到底不可能だった。声を上げていないと,気が狂いそうなほどの痛みだった。

慎治の悲鳴は玲子にとって、快感そのものだった。ファーストショットを慎治に当てた瞬間,玲子は全身に電流が走るのを感じた。慎治の背中が返す、生身の人間の肉体を打ち据える手応えは、今まで玲子が経験したどんな感触とも違っていた。床を打って練習した時の感覚などとは、比べ物にならなかった。素晴らしい感触だった。風切り音,慎治の悲鳴といった聴覚的快感,鞭を見舞った場所が一瞬の間をおいて赤く染まっていく視覚的快感も素晴らしかった。何よりも素晴らしいのは,圧倒的な優越感だった。ことによると、苦痛という観点だけでは、玲子が本気で蹴りを入れた方が痛いかもしれない。その気になれば、骨や関節を破壊する術など,玲子はいくらでも身につけていた。

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