SPITMEさんの作品「レイコとシンジ」【1】-1

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第一編プロローグ美しく、優れた存在と平凡な、地味な存在、同じ日に同じ学園に入学しながら、その差はどこに生まれたのだろうか。

4月1日、全国の高校で入学式が行われる日、ここ聖華学園高校でも厳かに、そしてどことなく華やいだ雰囲気の中で入学式が行われていた。聖華学園はもともと女子校としては名門校であったが、少子化の波には抗しきれず、2年前から共学校として生まれ変わったばかりであった。共学校として3年目の今年、新入生の男女比は5対5であったが、もともと女子校の名門校であったことに加え、更に男女別枠の合格としたため男女間の合格偏差値は大きな差があった。概ね、女子は65-70近い、極めて高い偏差値が要求されたのに対し、男子の偏差値は今年でも、60程度に留まっていた。もともと女子校、という校風を反映してか、女子の合格者は所謂優等生タイプから多少問題児だけど、成績だけはよい、といったタイプまで様々なのに対し、男子のタイプは偏差値的にも確かに成績は良いけど、クラスで1.2番を争う、というレベルではない、どこか線が細く、中学校まではクラスの中に埋もれてしまい、いるのかいないのか分からない、といったタイプが多いのが特徴だった。今年、聖華学園に入学した矢作慎治も、まさにそういったタイプだった。中学校までは勉強も、スポーツも、もちろん腕力もなにも取り柄がなく、ひたすら地味に過ごしてきた。3月生まれの慎治はクラスでもかなり小柄な方でもあり、あまりに地味すぎていじめの対象にすらならず、誰にも気づかれずに成長してきた、といった方が正しいかもしれない。もともと聖華学園を受験したこと自体、特に理由があった訳ではない。偏差値、家からの通いやすさが最大の理由、といつた程度である。強いて言えば、小学校からの同級生の天城礼子が受験する、と聞いて彼女と一緒の高校に通うのも悪くはないな、と漠然と思った程度である。

慎治と礼子が特別に仲がよかった訳では決してない。礼子は慎治にとって殆ど縁がない、高嶺の華のような存在であった。礼子は典型的な優等生タイプの美少女だった。成績は中学校では常にトップクラスだったし、体格にも恵まれていた。4月生まれの礼子はすでに身長167センチもあってクラスの大半の男子より身長が高く、更に運動神経も良かった。特に合気道、剣道の才に恵まれていた。ポニーテールに纏めた髪をなびかせてきびきびとした身のこなしを誇る礼子の姿は、慎治にとって単にあこがれの対象にすぎなかった。おまけに、礼子の家は古くからの名家であり、長女として跡取りたることを期待されて育ってきた礼子には、ある種のカリスマが備わっていた。礼子はお嬢様らしく、乗馬も趣味としていた。漆黒の髪をポニーテールにまとめ、赤い乗馬服をまとって騎乗する礼子の写真が慎治のクラスに密かに出回ったことがあった。慎治もこっそり購入し、その夜、自室で興奮に震えながら写真に見入った一人であった。だが、礼子の乗馬姿は余りに完璧すぎ、美しすぎ、ある種の威厳さえ感じさせるものだった。慎治ごときにとっては、オナペットにさえできないレベルのものだった。結局、慎治は中学3年間を通して礼子と殆ど口すら聞いたことはなく、遠目で密かに見惚れていただけであった。その礼子と同じ高校に入学したのは、あこがれの彼女を追いかけて、というわけではなく、女子高時代の雰囲気をひきずった、聖華学園の地味な雰囲気に引かれてであった。だが、あこがれの礼子が同じ聖華学園に通うとわかった時、これで本当に礼子と同じ空気を吸えると幸せに思った、という程度の、ある意味ストーカーにも通じる情けなさであった。

情けない、といえば川内慎治も同様であつた。慎治は所謂、ハンパ者であった。虚言癖、大言癖、ビッグな態度、単純に言って、バカだった。当然の如く、中学でもヤンキー化したが、慎治には重大な問題が一つあった。喧嘩が極端に近く弱かったことである。口先だけは勇ましい割に、慎治にはいざという時の向こう意気が全くなかった。更に言えば、慎治には根本的に運動神経がなく、かつ腕力自体も全く欠けていた上に3月生まれの伸次は体格的にもかなり見劣りがしていた。一度など、学校帰りにクラスの女子、大人しく、内気でしょっちゅうからかわれていた子に出くわし、いつもの調子で悪乗りしてからかいすぎた時だった。慎治の余りの悪乗りにとうとうマジ切れしてしまったその子はいきなり、伸次の横っ面を思いっきり張り飛ばした。女の子にひっぱたかれた慎治は相手が女の子、しかも一人だったこともあって飛びかかったものの、持ち前の鈍さから、単に腕をぐるぐる回しながら、ほとんど目をつぶってつっかかったような有様だった。これではどうしようもない。慎治は逆に髪の毛を引っ張られ、思いっきり転んでしまったところに散々蹴りを食らわされ、完全にKOされてしまった。慎治にとって幸運だったのは、その子が大人しい子だったおかげで、そのことを誰にも言わないでくれたことだった。女の子にKOされた、なんてことが知れ渡ったら、大変なところだった。しかも、空威張りする癖に自宅ではいい子になっている慎治は陰でガリ勉する男であり、ひそかに成績だけはかなり良かった。本来ならば、こういったタイプは格好のいじめの標的である。実際、慎治の立場はかなり危うかった。口先だけのつっぱりの化けの皮がはがれかけたところで何とか中学校を卒業でき、自分の偏差値を頼りにヤンキー系の連中が受験できない聖華学園に逃げ込んだ、といったところであった。

慎治に比べると、霧島玲子の事情は全く反対、といつてもよかった。玲子の中学時代、最大の楽しみはいじめだった。玲子の父は貿易会社社長で経済的に恵まれ、幼い頃から何不自由なく育った玲子は、4月生まれのおかげで成熟が早く、ルックス的にも非常に恵まれていた。茶髪、というより金髪に近く染めた髪をショートボブにまとめた玲子は、168センチの長身もあり、到底16歳には見えない、ある種セクシー、と言うほかない美しさだった。わがままいっぱいに育ち、しかも護身術かわりに幼い頃から習わされた空手、少林寺拳法でも天賦の才があった玲子は、本人すら意識しないうちに、自然と女王様的な立場に祭り上げられていた。両親と共に親しんだ乗馬も、玲子に女王様的な雰囲気を身につけさせたのかもしれない。男女を問わず、気に入らない相手を直接的、あるいはねちねちと間接的にいじめるのは、玲子にとっては単なる日常茶飯事に過ぎなかった。ただ、余りにいじめの度が過ぎ、クラスメートの男子3名、女子2名が同時に登校拒否となるに及んでは、いかに玲子の父がPTA会長であっても、流石に隠しきれなかった。玲子は成績自体は決して悪くなかったにも関わらず、素行の点で内申点が大幅に下がってしまつたため、都立の上位校をあきらめ、内申に関係のない私立校受験を余儀なくされてしまったのである。出身校、交友関係、家庭環境全てが違う礼子と玲子は勿論、共に聖華学園の門をくぐるまで、ほとんど面識はなかった。唯一の接点は、偶々二人が同じ乗馬クラブに所属していたことだけだったが、二人とも両親に連れられての参加であり、なんとなくの顔見知りではあったものの、直接口を利いたことはなかった。

四人は同じ一年一組となった。「あら、矢作君じゃないの、ここに来るとは聞いてたけど、まさか同じクラスになるとはおもわなかったわ。これからよろしくね。」慎治はホームルーム前の短い休み時間に礼子に声をかけられた時、内心、心臓が止まりそうであった。「あ・あ・ぼ・ぼくこそよろしくお願いします。」慎治は思わず、どもりながら答えてしまった。「でも意外よねえ。聖華って、女の子にとっては結構有名校じゃない。だから、一緒に受験した里美や朝子とは一緒のクラスになるかも、とは思ってたけど、うちの中学からここ受けた男子は矢作君だけでしょ?まさか一緒になるとは思わなかったわ。」「ま、矢作君とは中学では殆ど話したことなかったけど、今日から同級生だからね。よろしくね。」慎治は夢を見ているような気分だった。憧れの、というより超高嶺の花の礼子に話しかけてもらえるなんて・・・慎治は心底、聖華に入学して良かった、と思った。すぐそこに地獄の入り口が大きく口を開けて待っていることも知らずに。最初の座席の割り振りで礼子は慎治と、玲子は慎治と隣の席となった。玲子にとって、聖華の第一印象、特に男子の第一印象は「ろくな男がいないなあ」だった。玲子は線の細い、優等生タイプの男は大嫌いだった。勘違いでもいい、勉強ができるのを鼻にかけ、いばっているタイプはまだいいが、人の影に隠れるようにこそこそしているくせに、妙に成績だけはいいタイプ、そんな男は大嫌いだった。クラスの男子の殆どはそういう連中みたいだった。特に隣の席になった矢作慎治、こいつは最低。初対面で、しかも席が隣になったから一応、「霧島玲子よ、よろしくね」と声をかけただけで、思いっきりおびえた態度で「あ・あ・矢作慎治です。よ・よ・よろしくお願いします」と消え入るような声でしか返事できないなんてね。そりゃ、確かに顔をみた瞬間からあまり気に食わないタイプと思ったからちょっと睨むような目つきになったわよ、だけど、もう少しまともな受け答えくらいできないものなの?なんか、私がいじめてるみたいじゃない!

内心、胸のむかつきを抑えながら、玲子は慎治のことが早くも気に食わなくなった。「あいつ、そのうち泣かせちゃおうかな・・・」昼休みに玲子が中学からのクラスメートである真弓、亜矢子にそうつぶやくと、真弓もあずさも思わず吹きだしてしまった。「玲子ったら、初日からいじめの相談?」「あんたの場合、ひとの顔や名前を覚えるより、とりあえずいじめ相手を探す方が先なんじゃないの?」「まったく、いじめ相手じゃなくて彼氏でも作りなよ。玲子のフェイスだったらいくらでも捕まえられるでしょ?」「何よ、二人とも大人ぶっちゃって。どうせあんたたちだって、あたしがあいつのこといじめたら、喜んでジョインするくせに!」「ま、それは否定しないけどね。でも、ちょっとはマシそうなのもいるんじゃないの?」「川内のこと?まあ、多少は根性ありそうだけどね。でも、あいつ単なるバカじゃないの?そのうち、きっちりテストしてみるわよ。」一方、礼子は隣の席になった慎治がうっとうしくて仕方がなかった。妙に態度がでかくて、しかも馴れ馴れしい、礼子にとって、初対面の男にそんな態度をとられたのは初体験だった。「なんなの、あのバカ!」礼子は昼休みに朝子、里美に当たり散らしていた。「なんで私があんなバカにため口聞かれるのよ!「天城っていうの?俺、川内、よろしくな。なんかあったら相談していいよ」だって?なにバカいってんのよ、なんで私があんなバカに相談なんかするわけ?」「もう、礼子ったら、相変わらずすぐ怒るんだからー」「あんなバカほっときゃいいじゃん?あの手のバカにもいちいち真面目にかかわりあうのって、いい加減にやめたら?」「だって、あんなのに舐めた態度とられるのなんてまっびらよ!」

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