やすおさんの作品「歪んだ聖域――図書館の靴音」

前のページへ戻る

私が自分が「M」であることに目覚めたのは19歳の頃だ。 Mといっても百人百様、様々な嗜好があるが、私の場合は**“女性から自分が下の存在に見られる”**というシチュエーションに異常に興奮してしまう。 女性にM男であることを見透かされ、見下され、蔑まれ、馬鹿にされて笑われてしまう……。そのような場面に出くわすと頭が真っ白になり、膝が震えて、局部に触れてもいないのに吐精してしまったことも数え切れない。 当時は携帯電話やインターネットもない時代。SMそのものも今ほど社会で認知されておらず、もっぱら街で女性を観察し、馬鹿にされることを妄想することだけが慰めだった。 あれから30年以上経った今も、この性癖は変えられない。いや、むしろ年を重ねるごとに、その歪みは深くなっている。

■第一章:静寂の蹂躙

日曜日の穏やかな昼下がり。静寂に包まれた図書館の奥深く、専門書の棚が並ぶ人気のない一角に、私は足を運んでいた。 本を読むためではない。この知的な静謐な空間で、私のようなゴミを軽蔑し、馬鹿にしてくれそうな「女神様」を探すためだ。

この図書館の特徴は、本棚の間に点在する簡易的な丸椅子だ。そこで無防備に座って本を選んでいる女性客は、私にとって格好の観賞対象だった。

(……あそこに)

私の濁った視線が、ある一点で吸い付いた。 人気のない奥の棚の丸椅子に、一人の女子大生風の若い女性が座っていた。 グレーのニットワンピースに、上品なベージュのストッキング。そして足元は、季節感のあるダークブラウンのショートブーツだった。少しヒールのある、カツカツと音が鳴りそうな硬質な革靴だ。

彼女は脚を組み、文庫本に目を落としていた。 しかし、私の神経を逆撫でし、狂わせたのは、彼女の無意識の癖だった。靴を上下させて、床をトントン、トントンとリズミカルに叩いているのだ。

トン、トン……トン、トン……

静かな館内に、微かな、しかし私にとっては雷鳴のような音が響く。 ブーツの先端が床を叩くたびに、私の視線は磁石のように彼女の足元へ吸い寄せられた。ショートブーツの履き口から覗く、ストッキングに包まれた足首の筋。革の光沢。そのすべてが愛おしい。

(ああ、いい音だ……もっと、もっと叩いてくれ……)

私は本棚の陰から、オドオドと、しかし粘着質な視線を送り続けた。 チラッ、チラッ。 音が鳴るたびに覗き込むその挙動不審な動きに、彼女が気づかないはずがなかった。

ふと、床を叩く音が止んだ。 彼女が本から顔を上げ、私を直視していた。 最初は「何この人?」という怪訝な表情。しかし、私の目が明らかに自分のブーツに向けられていること、そして私がビクビクと怯えながらも興奮していることを察知すると、その表情は一変した。

口の端が吊り上がり、瞳に嗜虐的な光が宿る。 彼女は私を見下し、鼻で笑った。「あ、こいつ変態だ」と確信した顔だった。

(バレた……軽蔑されている……!)

その事実に背中がゾクゾクと痺れる。私は吸い寄せられるように、彼女の座る丸椅子のそばへ近づいていった。 そして、彼女の足元へわざとらしく自分のハンカチを落とした。

「あ、すみません……」

拾うふりをして、その場にしゃがみ込む。 目の前には、組まれた脚。そして、あのショートブーツがある。 私は拾う動作を止め、至近距離にあるその革靴に見とれてしまった。土や埃がうっすらとついた靴先さえも、私には神々しく見えた。

すると、彼女が動いた。 組んだ足のつま先をクイッと上げ、ショートブーツの靴裏を私の顔の目の前に突き出したのだ。 ゴムと革の混じった独特の匂いが鼻をかすめる。

(えっ……?)

私が息を呑むと、彼女はすぐに足を戻した。 しかし、またすぐにクイッと靴裏を見せつける。 近づけては戻し、近づけては戻す。まるで猫じゃらしで猫をからかうように、あるいは餌を待つ犬を焦らすように。

彼女は本など読んでいなかった。私の反応を見て、ニヤニヤと笑っているのだ。 「ほら、これが見たいんでしょ?」「舐めたいの?」とでも言うように、汚れた靴裏を私の鼻先数センチでチラつかせる。

「あ、あの、わ、わ、わ、私は……」

私が震える声で言い訳をしようと口を開きかけた、その時だった。

グリッ。

「うっ!?」

焦らされていた靴裏が、唐突に私の頬に押し付けられた。 遠慮などない。彼女は全体重をかけるように、ショートブーツの硬いソールで、私の緩んだ頬肉をグリグリと踏みつけたのだ。

「……ッ!」

図書館ゆえに大声は出せない。それが余計に私の逃げ場をなくした。 ザラザラとした靴底の感触。路上の汚れが自分の顔に擦り付けられる屈辱。そして何より、自分より遥かに若い女子学生に、ゴミのように踏まれているという興奮。

恐る恐る視線を上げると、彼女は楽しそうにニヤニヤと笑いながら、口パクで何かを呟いていた。

『き・も・い』

そう動いた唇は、紛れもなく嘲笑の形をしていた。

その瞬間、私の理性が崩壊した。 私は靴に踏まれたまま、本能的にその場で正座の体勢をとった。床に膝をつき、両手を太ももの上に置く。完全なる服従のポーズだ。

「す、すいません……すいませんっ……!」

頬には靴裏の跡がついている。それでも私は、小声で謝罪の言葉を繰り返した。 謝りながら、踏みつけられる快感と、静寂な図書館での公開羞恥プレイに、脳が沸騰する。

「あ、あっ、あぁ……ッ」

ズボンの中で、限界まで達していたものが一気に溢れ出した。 正座をしたまま、女子大生のブーツに顔を踏まれたまま、私はビクビクと身体を震わせて絶頂を迎えた。

彼女はその様を見て、「うわ、マジで?」と目を見開き、そしてすぐにまた軽蔑と面白さが入り混じった冷酷な笑みを浮かべた。 彼女はゆっくりと私の顔から足を離すと、汚いものでも触ったかのようにブーツの裏を床でキュッキュと拭い、また静かに読書に戻るふりをした。

私は一人、精液で汚れた下半身を正座で隠し、床にひれ伏したまま、恍惚と絶望の狭間で荒い息を吐き続けていた。図書館の静寂の中に、私の浅ましい喘ぎ声だけが微かに溶けていった。

■女子大生たちの密談

「えー、嘘でしょ愛美。顔踏んで『ありがとうございます』って言ったの?」 「本当だって! マジでウケたよ。私のブーツの裏、汚いのにさ」

大学のカフェテリア。愛美は友人の優子に、先日の図書館での出来事を笑い話として語っていた。

「愛美もよく知らない人の顔、踏めたね?(笑)」 「だって、明らかにおどおどしてて、ドMって感じだったからさぁ。『踏んでください』って顔に書いてあったもん」

優子はアイスラテをかき混ぜながら、信じられないものを見る目をしたが、すぐにその表情は好奇心に変わった。 「やばいねそのおじさん。……ねえ、ちょっと見てみたいかも。どんな顔して踏まれるのか」 「でしょ? 今週の日曜もいるかな。絶対また来るよ、あの変態」 「じゃあさ、行ってみる? 二人で」

二人は顔を見合わせ、悪戯な笑みを浮かべた。それは、残酷な子供が虫を突っつきに行く時の顔だった。

一方、私はどうしようもなかった。 あの日、愛美のショートブーツで顔面を蹂躙された記憶が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。靴裏のザラついた感触、路上の泥の匂い、そして見下された冷酷な瞳。 理性が「行くな」と警告するのに、体は勝手にあの場所を求めていた。

■第二章:二重の罠

日曜日、午後2時。私は再び図書館の自動ドアをくぐった。 心臓が早鐘を打つ。視線は泳ぎ、獲物を探すように、かつ捕食者を恐れるように、あの「奥の棚」へと向かう。

(……いた)

私は棚の陰で息を呑んだ。 あの日と同じ場所に、丸椅子が二つ並べられている。 一人は愛美だ。今日は上品な紺色のワンピースに、透け感のない濃密な黒タイツ。足元はあの日と同じ、ダークブラウンのショートブーツを履いている。 そしてもう一人、新しい女性がいる。優子だ。彼女は清潔感のある白いカットソーに、体のラインが出る黒いタイツスカート。足元は愛美とは対照的に、薄いベージュのストッキングに、華奢なヒールのパンプスを合わせている。

異なるタイプの二人の美女。黒タイツのブーツと、ストッキングのパンプス。 その圧倒的な光景に、私の膝が震え始めた。

すると、示し合わせたように二人の足が動いた。

トン、トン……カツ、カツ……

愛美のブーツ、優子がパンプスが床をリズミカルに叩き始めたのだ。 静寂な図書館に響く、革と床がぶつかる音。それは明らかに私を誘う「合図」だった。

私は操り人形のように、フラフラと彼女たちの元へ近づいていった。 棚の角を曲がり、二人の視界に入る。 彼女たちは本など読んでいなかった。最初から私が来るのを待ち構えていたのだ。

「……あ、来た。愛美の言ってた通りだ」 優子がヒソヒソと、しかし笑いを堪えるような声で言った。 「でしょ? ほら見て、あの目。私のブーツ見てる」

私は二人の前で立ち尽くした。逃げなければならないのに、視線が二人の足元に釘付けになって動けない。

「おじさん、また来たんだ。私の靴、そんなに美味しかった?」 愛美が冷ややかな笑みを浮かべ、組んでいた脚を解き、再び組み直した。その動作に合わせて、黒タイツに包まれた足首が艶めかしく動く。

「こっちの子の足も気になる? ストッキング好きでしょ?」 優子もそれに合わせ、ベージュのストッキングに包まれた足を高く組み、パンプスをブラブラとさせた。かかとが浮き、足の裏のアーチが露わになる。

「ひっ、あ……」

「うわ、顔赤っ。キモいんだけど」 優子が私の反応を見て、ゾクゾクするような軽蔑の視線を送る。

「ねえ、今日はどっちが見たいの?」

二人は同時に、組んだ足のつま先をクイッと上げ、その「裏側」を私の顔に向けた。 愛美のブーツの、泥と埃で汚れたゴツゴツとしたゴムソール。 優子のパンプスの、すり減って黒ずんだベージュの靴底。

二つの「底」が、私の視界を埋め尽くす。

「ほら、よく見てみなよ。地面踏んづけて汚れた裏側だよ?」 「すごい見てる。穴が開くほど見てるよ愛美」

彼女たちは靴裏を私の顔に近づけたり、遠ざけたりして遊んだ。 まるで目の前に餌をぶら下げられた犬だ。私の首は、二人の靴の動きに合わせて上下左右に振られる。

「こっちのブーツがいいの? それともこっちのパンプス?」 「どっちも臭そうとか思ってるんでしょ。変態」

二人の美女による、ステレオ音声のような罵倒と、視覚的な暴力。 黒タイツとストッキング。ブーツとパンプス。 異なる素材、異なる匂い、異なる軽蔑の形。その情報量が私のキャパシティを超えた。

「あ、うっ、うう……ッ!」

私はたまらずその場に崩れ落ち、床に膝をついた。 四つん這いになり、二人の靴の下にひれ伏す。

「ははっ、優子見て! 土下座した!」 「マジで!? 何これ、宗教?」 「信仰してるんだよ、私たちの靴を」

私は床に四つん這いになり、二人の若い女性の足元にひれ伏していた。 愛美のショートブーツと、優子のパンプス。その二つが眼前に並んでいるだけで、私の脳内物質はすでに許容量を超えていた。

「……ねえ、愛美。ちょっと待って」

優子が眉をひそめ、人差し指で私の股間を指差した。 ズボンの生地が限界まで引っ張られ、浅ましく突き出している。

「嘘……。ねえおじさん、こんな状況で勃ってるの?」 「うわ、本当だ。気持ち悪っ」

二人は顔を見合わせ、声を殺してクスクスと笑った。図書館の静けさが、彼女たちの囁き声をより残酷に響かせる。

「シッ、静かにね。ここ図書館だよ?」 愛美がわざとらしく口元に指を当て、私の耳元で冷たく囁いた。 「こんなに元気になっちゃって。私のブーツの裏が見えただけでしょ? 頭おかしいんじゃないの?」

「ほんと、理性とかないわけ? 犬でももう少し我慢するよ」 優子も冷ややかな視線で私の全身をなめ回す。

「あ、うぅ……す、すみません……」

私は恥辱と興奮でガタガタと震え始めた。脂汗が額からポタポタと床に落ちる。 若い女性二人に見下され、公衆の場で勃起を指摘され、嘲笑われている。その状況が、私のマゾヒズムの炎に油を注いだ。

「見て、すっごい震えてる」 「何か期待してる顔だよね。……ねえ、そんなにしてほしいの?」

愛美がゆっくりと丸椅子から立ち上がった。

「正座!」 「はっ、はい!」

私は慌てて身体を起こし、二人の前に正座した。 すると、愛美はショートブーツを履いた右足を上げると、私の膨れ上がった股間――その先端部分に、躊躇なく硬い靴底を乗せた。

「あっ……!」

「声出さないで。うるさいと追い出されちゃうよ」

愛美は冷酷に言い放つと、体重をかけて踏み込んだ。 グリッ、グリグリ……。 路上の汚れがついたゴム製のソールが、私の敏感な部分を生地越しに無慈悲に押し潰す。

「あっ、あっ、……!」

痛みと快楽の濁流。 女子大生の履くブーツで、自分の男としての象徴を踏みつけられている。 私は快感のあまり白目を剥きかけ、頭の中が真っ白になった。

「うわ、ガチガチじゃん、本物のヘンタイだ」 愛美は汚いものを踏むように眉をしかめながらも、足先の力を緩めない。むしろ、面白がってさらにグリグリと執拗にねじり込む。

「ははっ、愛美すごい。おじさん、すごい顔してるよ」

優子がその光景を横から覗き込み、ニヤニヤと嘲笑する。 そして、限界寸前で喘ぐ私の顔の真上に、彼女は自分の顔を近づけた。

「ねえ、おじさん。私たちみたいな若い子の靴で遊ばれて、嬉しい?」

私は朦朧とする意識の中で、優子の美しい顔を見上げた。 「は、はい……うれ、しいです……」

「……バカみたい。惨めすぎて笑える」

優子の表情から笑みが消え、完全なる侮蔑の色が浮かんだ。 彼女は口の中に唾液を溜めると、私の紅潮した顔めがけて、ぺッ、と吐き捨てた。

「!」

生温かい液体が、私の頬にかかる。 他人の唾を顔にかけられるという、人間としての尊厳を完全に否定される行為。 そして股間には、愛美のブーツによる強烈な圧迫。

二重の衝撃が、私のリミッターを粉々に破壊した。

「ッ、ン、ぐ、あ゛あ゛あ゛ーーーーッ!!」

声を押し殺すことさえできなかった。 私は喉の奥から獣のような絶叫を漏らし、愛美のブーツの下で大きく跳ねた。 ズボンの中で、大量の白濁液がドクドクと吐き出され、愛美のブーツの靴底越しにその脈動が伝わる。

「……うっわ」 「最低……」

愛美はすぐに足を引っ込め、優子はハンカチで口元を拭った。 二人は完全にドン引きし、同時に、とんでもないものを見てしまったという興奮で頬を紅潮させていた。

「行こっか。空気汚染されたし」 「だね。二度と来ないでほしい」

二人は荷物をまとめると、床に転がりピクピクと痙攣している私を跨ぐようにして立ち去った。

「あはは! まだ動いてるよ」 「動画撮っとけばバズったかもね。タイトルは『図書館の変態』で」

遠ざかる二人の残酷な笑い声と、カツカツという二種類のヒールの音。 私は一人、顔についた唾液を拭うこともせず、精液で重くなった股間の感触と、踏みつけられた痛みを噛み締めながら、図書館の床の冷たさに頬を押し付けていた。 社会的には死んだも同然だが、その虚ろな瞳は、かつてないほどの至福に満ちていた。

前のページへ戻る


お問い合わせ

↑トップへ