JOYさんの作品「ファンタジー」<第一章>

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曲がり角をまがると街はファンタジーの様相を呈す。

そこには無数の広がりがある。

ネオンが揺れる繁華街がある。薄暗い道にはコンビニの明かりが灯る。

それぞれの思いをかかえた人たちが、歩き、立ち止まり、そして消える。

そこには物語がある。

わたしは散歩が好きだ。

散歩といってもどこかの偉い作家のように日記にしたためるようなしろものではなくて、

わたしにとってはちょっとした冒険・探検のようなもの。

あてもなく街をあるくのが好き。

夜の帳が下りる頃、夕方の薄暗くなってゆく街を歩く。

その日わたしは行き止まりの小さな路地を見つけた。

「この道はどこへ行こうとして作られたのだろう...」

セメントで固められた、柱がのぞく壁の前で、わたしはしばらく立ち止まった。

行き止まりの道は徐々にみんなに忘れられてしまうのだろうか。

わたしは、新宿西口にいた。

立体に交差している道の高架に座って、夕日がビルの窓に光るのを見ていた。

中央公園の繁みは暗くなって、人をよせつけないよう閉じていくようだった。

鳥は街にはもういない。どこか暖かいところへいったのだろう。

新宿の西口は何度きても必ず迷ってしまうのだった。

立体に交差した道をたて横に歩くと、どっちの方向に行っているのか分からなくなってしまう。

整然と設計された隙間のない街。

都会の人の精神病のひとつに潔癖症というのがあるらしい。そんな人は、たとえば温泉にいっても、

人と一緒にお風呂に入れないし、自分の脱いだTシャツや下着もきっちりとたたまないと 気が済まなかったりするそうだ。

この街にいるとそんな人の気持ちもわかる気がする。

なにもかもきちんとよく作られている。

そのうち感情も整理され、規格どおりに整えられてベルトコンベアーで売られる。

はい、「喜び」のLサイズお待たせいたしました....

「おねえちゃん、煙草は吸いなさるかい。」

西口にいるレゲエのおっちゃんが、知らない間に立っていた。

わたしは煙草はあんまり吸えないけれど、カバンにはいつもマルボロメンソールとライターを入れている。

時々ふっと吸ってみる気になるけど、いまだにおいしいと思ったことはない。

「うん。 あるよ。」

昨日買って1本しか吸っていないマルボロメンソールをごそごそとカバンから取り出しておっちゃんに1本あげた。

「ちょっと切らしちまってな...ハッカのタバコかい、これは...」

おっちゃんは最初はちょっと変な顔をしたけど、おいしそうにタバコを吸っていた。

「おねえちゃん、高校生かい。」

「うん。3年生。」

「そうかい。恋の季節だな。わっはっは。」

わたしは恋などのどころではない。

クラスの女の子達は、V6やキンキがどーだとか、駅前のマックの男の人がかっこいいなどと

恋物語を飽きもせず語りあっているし、そんな話に醒めた娘たちは、さっさと初体験を済ませ、

お化粧の仕方やお肌の手入れの方法を熱心に研究し、どうやってプラダやシャネルを手に入れるかについて

真剣に悩み、彼氏とは結婚しないけど、20代で子供を産まないと老後がたいへんだなどといって、

人生における楽しみを既に半分は想像の中で消化しているようだった。

わたしにはどちらのお話も退屈だった。

それなりに親友はいるし、男の子を呼んだ合コンパーティーにも呼んでもらえるけど、

わたしはいつもにこにこしているだけで、みんなの話す血液型の相性占いや

男の子たちの受けをねらったギャグも、ちっともおもしろいとは思わなかった。

こんなので、カップルになるなんて、なんだかよく分からない。

こんな場所にいるのならお隣の家のジョンと散歩にいって、いろんな道をあるいているほうがよっぽどいい。

誰か人を好きになるのなら、犬のように好きになりたい。

ジョンはわたしのことをとっても好きだし、きっといつまでもわたしのことを好きだろう。

「最近のタバコは薄くなって味がしねえな。 これで値段が上がって税金ばっかり取られたんじゃ

何吸ってるのかわかりゃしねえ。高校生でも税金払って吸ってんだから、偉い人たちゃ税金の使い道を

よく考えてほしいってもんだよな。なあ、おねえちゃん...」

おっちゃんはちょっと臭かったけど気さくな人で、30分くらいその場で話し込んで別れた。

どうも昔は会社のちょっと偉い人だったらしいけど、最後まで本当のことは言わなかった。

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