GIMICさんの作品「Toy Boy」【11 試験】
その日、紗枝は1日中陽一の様子を見て楽しんでいた。朝とは違って、陽一は一度も紗枝の方を見なかった。
(そんなに恐い顔をしてたかな、わたし、ふふ。あの時もそうだったけど、陽一君って私にしかなつかない仔犬ってかんじ…)
(テストはどうしようかなあ。なんだか裸になるのは慣れちゃったみたいだし。便器も平気で舐めそうな感じだったし…)
陽一も「テスト」のことで頭が一杯だった。
(紗枝ちゃんのテストにぼくは合格できるだろうか…。テストっていったいどんな…。) 陽一はこれまでの紗枝の命令を順番に思い出すと身震いした。
(きっと想像もつかないようなテストなんだろうな…。絶対にぼくにはできないような…。)
最後の授業の終わりを告げるチャイムが教室に響く15分ほど前、それまでずっと考え込んでいた紗枝が密かに微笑んだ。そして、急いで何かを書き始めた。
チャイムが鳴った時、陽一は全身が強ばるのを感じた。
(ああ、いよいよだ…)
教師が出ていくと、教室はざわざわと急に騒がしくなった。帰り支度をする者、クラブ活動へ行く準備をする者、帰りの寄り道の相談をする者とみんなががやがやと教室の中を行ったり来たりする中、陽一は紗枝が来るのをじっと 待っていた。紗枝の方を見ると、紗枝は聡美と話をしている。
(いったい、何をさせられるんだろう…)
決心はしているものの落ち着かない。
(紗枝ちゃん、早く命令して…)
陽一の心の中で矛盾した二つの思いが交錯した。
もう一度紗枝の方を窺うとなんと紗枝は鞄を持って聡美と一緒に教室を出て行くところだった。
(え、そんな…)
陽一は慌てて自分も鞄を手にすると紗枝を追いかけた。
「さ、紗枝ちゃん!」
(うふふ、来た来た。)
「なに?」
「あ、あの…テスト…」
聡美が側にいるので陽一の声は小さかった。
「ああ、ごめんね。今日は聡美の部屋に遊びに行く約束なの。それはまた明日にして。」
「え…、あ、そう…」
(そ、そんな…。)
(一大決心をしたのにって顔ね、陽一君。)
「あれ、紗枝、森君と約束があったの?いいよ、私なら。」
「いいのよ、そんな大した事じゃないし。あ、それとも森君も聡美んちに行く? いいよね、聡美?」
(ちょっと…、紗枝ちゃん。)
陽一は慌てたが、紗枝はそれを無視している。
「それはいいけど、私も一緒にいていいような話なの?」
「うん、その方がいいかも。聡美も一緒にいてくれた方がいいよね、森君?」
(紗枝ちゃん、それどういう意味?)
「今朝、階段で話してたことよ。聡美の部屋でしましょ。」
(聡美ちゃんの前で…テスト…する…の?)
陽一は目眩いがしそうだった。
「じゃ、行こう。」
「ほら、行くよ、森君。」
陽一は学校からどの道を通ったのかすら覚えていなかった。頭の中でずっと同じフレーズが何度も何度も流れていく。
(聡美ちゃんの前で何をするの?)
「さ、着いたわよ。」
マンションの一室に入った後も陽一には回りの風景は全く見えていなかった。
聡美の部屋に通され、小さなテーブルの回りに紗枝と陽一は腰を下ろした。
「じゃ、話があるんだったら、先に始めてて。私、お茶でも入れてくるから。」
聡美が部屋を出た途端、陽一は紗枝の方を向いた。
「さ、紗枝ちゃん! テストってここでするの?」
「そうよ。聡美の見てる前でこの紙に書いてあること全部したら、合格よ。」
目の前に差し出された紙を陽一は受け取り、開いた。想像はついたがそこに書かれた短い命令に陽一は凍りついたように動けなくなった。
『聡美に全部告白すること。もちろん、あの格好も見せる事。ただし、私はなんにも知らないフリするからね。』
(そ、そんなこと…できないよ。)
しかし、頭の片隅では、陽一は早くもどういう風に聡美に話を切り出すかを考え始めていた。
陽一は必死で恥ずかしくない方法はないかと思案したが、もちろん、そんなものがあるはずはなかった。
(あの時とは状況が違いすぎるよ。紗枝ちゃんには突然全部見られちゃったんだから。何も知らない聡美ちゃんに「ぼくは変態なんです」なんて言えないよぉ。)
そして、仮に告白ができても、あの姿を聡美に見せなくてはいけないのだ。
それは聡美の面前で一枚一枚服を脱いでいく事を意味する。
(そんなこともっとできないよ。どうする…どうする…)
陽一は膝の上に置いた両手を思わずぐっと握り締めた。
紗枝は、うつむきながらじっとしている陽一の様子をじっと観察していた。
(さあ、できるかな、陽一君?)
その時、聡美が紅茶とクッキーを乗せたトレーを持って部屋に入って来た。
陽一の体がびくっと震える。
「はい、お待たせ。このクッキーおいしいよ。」
「あ、ありがとう、聡美。わあ、おいしそう。」
紗枝と聡美はさっそくクッキーに手をつけ、クッキーの味の品評を始めた。
ひとしきり話した後、聡美が陽一に話しかける。
「どうしたの、森君?クッキー食べなよ。」
「あ、うん。ありがとう。」
陽一はクッキーをひとつ口に運んだが、味が全然分からなかった。
(どうやって切り出せばいいんだろう…)
「紗枝に話ってもう済んだの?」
「うん、済んだよ。それよりさ、あの変態君の件で私たちに話があるんだってさ。」
(あ、あ、紗枝ちゃん。まだ、心の準備が…)
「え、なになに?何か分かったの?」
聡美が身体を乗り出してくる。
「え、あ、そ、そうなんだ…。その…」
「何が分かったの?まさか犯人が分かったとか?」
にこにこしながら、聡美が陽一を見つめる。
聡美は半分冗談のつもりで言ったのだろうが、「犯人」という言葉に陽一はますます身体がすくんだ。でも、ここで話を切り出さないと二度と口が開けないような気がした。つまり、テストに合格できないことになる。
ごくり…と唾を飲み込むと陽一は口を開いた。
「ね、ねえ、聡美ちゃん。怒らないで聞いて欲しいんだ…」
(ばか、怒らないわけないじゃないか…こんなこと話して…)
「なんで私が怒るの? 怒らないよう。」
「ほ、ほんとに?」
「うん。私も犯人知りたいし。」
「じゃ、じゃあ…。あの…、あの写真に写ってるやつなんだけど…。」
怒らないわけはないと思いつつ、聡美の優しそうな表情に微かな期待を込めて陽一は話し始めた。
「誰だか分かったの?」
「う、うん。あれが誰だか…ぼく…知ってるんだ。」
「え~っ、ほんと~?教えてよ、早くぅ。なんで今まで黙ってたのよぉ」
「う、うん…ご、ごめん…ちょっと言いにくくて…」
一旦、話を始めたものの屈託のない聡美の笑顔を前にすると、陽一は言葉に詰まった。
(やっぱり言えないよ。そんなこと言えないよ。でも…でも…。紗枝ちゃんの命令は全部聞かないとだめなんだ…)
ぐずぐずしていると紗枝に失格を言い渡されてしまう。必死で陽一は言葉を選ぼうとしたが言葉が浮かんで来ない。
陽一がふいに立ち上がった。そして、シャツのボタンを外し始める。
(説明するより、いっそのことあの姿になった方が…)
陽一はそう決心した。ぞわぞわと背中に何かが走る。
(こ、こんな時にまで感じてる…)
「ど、どうしたの、森君?」
「…」
聡美の質問に答えないまま、陽一はシャツを脱ぎ捨て上半身裸になった。
次にズボンのベルトを緩め、ジッパーを全開にした。ズボンがするりと足元に落ちる。
「どうしたのよ、森君。何するつもり?」
「あ…れは、ぼくなんだ…」
「え?」
