GIMICさんの作品「Toy Boy」【2 誤算 】
陽一の姿が階段の方へと消える直前、反対側の階段を駆け上がってきた女生徒がいた。一瞬、全裸の男子生徒が見えたような気がして彼女は思わずその場で立ち止まった。しかし、「馬鹿みたい私ったら」と思い直して彼女は自分の教室に駆け込み、忘れ物を手にするとまたプールへと戻るべく階段を下りていった。
一方、陽一は2階から1階へと向かう踊り場を越え、残すは最後の階段のみと言うところまで来ていた。
(アア、ハズカシイケドキモチイイヨォ。デモモット・・・)
より深い快感を求めて陽一は階段を最後まで、それも目を閉じて降りることに決めていた。階段を最後まで降りると言うことは、校舎の出口を通してプールから丸見えになることを意味した。一歩、又一歩と陽一は階段を降りて行く。興奮は高まっていった。ペニスがひくひくと動き始める。最後の段を降りた時に「いってしまうんじゃないだろうか。」陽一はそう思っていた。実際に快感がとめどなく込み上げて来ている。
(もし、いかなかったら、あそこでオナニーするんだぞ。校舎の中で全裸でオナニーするなんてどこまで恥ずかしい奴なんだ、お前は)
心の中でそうつぶやくとまた新たな快感が押し寄せてくる。
階段もあと数段を残すだけになり、陽一が間もなく訪れるはずの射精の快感に思いを寄せていた時、ふいに校舎の中にひたひたという裸足の足音が聞こえて来た。歪んだ快感に溺れて気づくのが遅れたのだ。とっさに陽一は手で股間を押さえようとしたが、もちろん両手の拘束は固く手首に食い込んで簡単には外れない。「ど、どうしようっ」しかし、どうすることもできない。階段の途中では隠れる場所もない。陽一は壁に背中を押し付けて立ちすくんでしまった。こんな状況なのに股間がじぃんと痺れたようになってくるのが感じられる。「ああ、だめだ、見られたらもう学校にはいられない!」(ア、ア、でも・・)そんな事を陽一が思った時、視界の片隅に水着姿の女生徒の姿が見えた。
頼むからそのまま気づかずに通り過ぎてくれ。陽一はそう願ったが、その女生徒の顔がくるりとこちらを向いた。クラスメイトの長谷川紗枝であった。
二人は一瞬沈黙のまま立ちすくんでいた。
見られてしまった。どうしよう・・・。実を言うと長谷川紗枝とはつい先程陽一が思い切って声をかけてみようかと思っていた当の本人である。その紗枝にとんでもないところを見られてしまったのだ。言い訳しなければ。陽一の頭の中をぐるぐると様々な言葉が駆け巡る。しかし、紗枝の視線が自分のそそり立ったペニスに注がれている事に気づくと何も言えなくなってしまった。
紗枝は、咄嗟には状況が理解できなかった。それはそうである。まさか学校で―――水泳大会に華やぐ白昼の学校の中で―――全裸の少年に出会うとは誰が予想しようか。しかもその少年の股間は勃起している。勃起した男性のペニスを見るのははじめてではなかったが、それを見たことがあるのは1年前からつきあっている大学生の恋人の部屋でだけだった。
(そうだ、ここは学校の中だった、私は忘れ物をとりにきて・・・)
ここへきてようやく相手の顔が、クラスメイトの森陽一だと気がついた。さっきまで大会で活躍していた森陽一…。意外に男らしいんだな、なんて思い始めていたのだが。
「なにしてるの?」
眉間に軽くシワを寄せ、彼女は聞いた。これ以外に言葉は浮かばなかった。
このテの「痴漢」には学校の下校時などに何回かあったことがあった。高校生の女のコなら誰でも、数回は経験したことがあるはずだ。ただ、いつもは「露出魔」にあっても無視して通りすぎるだけだった。相手にしたら何をされるかわからない、無視するのが一番だと恋人や友人から言われていたから。しかしいま目の前にいるのは、知っている相手だ。いつもは大人しく、どちらかというと真面目なクラスメイトの陽一。
「なにかされる」心配は少ないと思った。
「なにしてるの?」
無意識のうち、その声はさきほどよりもきつい、詰問口調になっていた。
陽一は見られてしまったのが紗枝だった事で完全に狼狽していた。何か言わなきゃ。言い訳しなきゃ。せっかくいいところを見せられたと有頂天になっていたのになんてことになってしまったんだ。
「ち、ちがうんだよ。あ、あいつらにやれって言われたんだ…だ、だから見ないで!」
絞り出すようにそう言うのが精一杯だった。
(紗枝ちゃんに見られてしまうなんて!で、でも、ま、さかそんな・・)
恥ずかしさに慌てているはずなのに快感はなおも込み上げてくるのだった。
陽一の顔は今にも泣き出しそうに歪んでいた。しかし、体は紗枝の方を向けたままだった。少し、腰を引き加減にしてはいるものの紗枝から勃起したペニスがまだ丸見えである。
(恥ずかしいのに隠せないよぉ。で、でも気持ちいい。)
「あいつらって誰よ?」
陽一の真意を知るために何をどう聞けばいいか紗枝が思案している間にも陽一の様子が変化していた。まるで嗚咽のように「うっ…うっ」と小さく声を漏らしながら彼の膝が小刻みに震え、それに合わせるようにまるで痙攣でも起こしているかのように腰が小さく前後に動いている。(このコったら一体なんなの)と思っていると窓から差し込む日差しに陽一のペニスの先端がきらりと光った。よく見るとペニスの先端から透明の粘液が今にも滴りそうに溢れ出ているのだった。
陽一のその様子を見るうち、異様な状況に自分がいるにもかかわらず紗枝はなんだか陽一に興味を抱き始めていた。紗枝の中の「露出魔」のイメージと異なり、陽一が攻撃的な様子を見せないので、強気になったのかもしれない。それに、一向に萎える気配を見せないペニスに少々腹立たしくも感じはじめていた。それどころかそれはひくっひくっと動いているではないか。若い男のコが自分でもコントロールしきれないほどに性欲にあふれていることは知っているが、それにしても、イヤな目にあったらペニスは萎えるものなのではないか? 陽一の困っているような様子は嘘なのか? 第一、なぜ彼は後ろを向くとかしゃがみ込むとかしてその恥ずかしい部分を隠そうとしないのだろうか
「やらされたなんてウソでしょう。あんた、見られて喜んでるんじゃないの?」
「ち、ちがうんだって!」
(ホントウニハズカシインダ。デモ、ドンドンキモチヨクナッチャウンダヨォ)
その言葉に嘘はなかった。陽一は誰かに本当に見られてしまう事を期待していたわけではなかったのだ。つまり、校舎内には誰もいないという事を前提にして、「でも、ひょっとしたら誰かに見られるかもしれない」というスリルを楽しんでみたに過ぎない。もちろん、予想外の快感に暴走しようとはしていたが。だから、突然の紗枝の出現に陽一は心底驚き、そして自分のした行為を恥じるとともに深く後悔していた。ただ、陽一の体だけが本心とは全く正反対の反応をしているのだった。陽一自身も信じられないのだが、こんな恥ずかしい姿を紗枝に見られた上、変態呼ばわりされようとしているのに彼は今すぐにでも「イキ」そうなくらい快感に翻弄されていた。
早くこの場を逃れなければもっとまずいことになる。言い訳をするよりもまずここから逃げ出さなければ。
紗枝が次の言葉を口にする前に陽一は哀願するように言った。
「長谷川さん、お、お願いだから誰にも言わないで・・。それに早くプールに行かなきゃ。」
こう言えばクラスメートである紗枝なら見逃してくれるはずだ。紗枝は誰かに告げ口するようなこともないだろう。陽一は理由もなくそう思いこんでいた。いや、そう自分に思い込ませようとしていたのかもしれない。そして、陽一は紗枝の返事を待たずに一刻も早くこの場を立ち去るために両腕を拘束具となっている水着から抜こうとし始めた。紗枝が何か言っても逃げるつもりだった。
要領を得ない陽一の返答に紗枝はイラ立ちを増した。露出魔のくせに、と紗枝は思った。露出魔のくせして私をナメている。可愛らしい童顔の陽一のことは別に嫌いではなかったが、そう思うと、突然、意地の悪い気持ちになった。このまま逃がしたりなんてするものか。
紗枝は明るく快活で、ふだんから大人しいほうではないが、キツい性格ではなかった。陽一もそこに魅力を感じていたのだが、次の瞬間、紗枝自身も驚くほど攻撃的な口調で陽一に言葉を浴びせていた。
「誰にも言わない? 私がこんなもの見せられて喜んでるとでも思ってるの? 陽一くんがこんな変態だったなんて…!」
陽一の動きが止まる。「変態」という言葉が陽一の心を抉ったのだ。憧れの紗枝に変態だと思われている!恥ずかしさを少しでも和らげるために逸らしていた視線を紗枝に戻した時陽一は思わず息をのんだ。
紗枝自身は気づいてはいなかったが、彼女の表情に大きな変化が現れていた。笑顔の彼女しか記憶にない陽一は、毅然とした紗枝の凄味さえ感じさせる美しい顔だちに圧倒されてしまった。特に紗枝の大きな瞳には何者の反抗も許さない力が宿っていた。陽一は紗枝の美しい瞳から発せられた鋭い眼光に逃げようとする意志も力も全て奪われてしまうような気がした。
「変態!」
この一言がとどめになった。
(変態・・・。ぼくが変態だって?そんな・・・)
(でも、紗枝ちゃんに恥ずかしい姿を見られてこんなに感じているじゃないか。そうだろう?)
陽一の中で二つの思いが交錯する。
陽一は両腕の拘束を解けないままへなへなとその場に座り込んでしまった。体の力が抜けていく。
(あの時、止めておけばよかったんだ!なんでぼくは・・・)
(それより、口止めしないと!)
陽一は階段から転げ落ちそうになりながらもなりふりかまわず廊下に這いつくばるようにして紗枝に頭を下げ、懇願した。
「ごめんなさい。ゆ、許してください、お願いです。もう絶対にしないから、誰かに言うのだけは・・・」
許しを乞う言葉を並べ立てながら陽一はペニスがさらに痺れていくのを感じていた。(どうして?・・と、とまらないよぉ)
何とかして紗枝に許してもらうしかない。陽一本人にもそして紗枝にも見えはしなかったが、ペニスの先端から透明な液体が階段の上に糸を引くように滴り落ちた。
陽一に頭を下げられ、紗枝は少々ひるんだ。いままで男の子に土下座された経験などない。しかし同時に胸の奥にいままで感じたことのない奇妙な感覚がドッとわきあがってきた。ムズムズするような…ワクワクするような…。それは不快なものでなく、むしろ気持ちのいいものだった。
紗枝は自分の心の動きを不思議に思いながらも、(もっと)と思った。もっと陽一に意地悪をしてみたい。
「本当に悪いと思ってるの?」
意地悪をしたいと思ったものの、紗枝にはどこまでやっていいのかわからなかった。陽一に逆ギレされたら、腕力ではかなわない。でも。
(でも陽一くんはいま腕がつかえないのだし、私は彼の弱みを握っている、だいじょうぶだわ)
紗枝はすっと陽一に近づくとつま先で軽く陽一の頭をこづいてみた。
紗枝の一喝に驚いて廊下に頭を擦りつけんばかりに土下座していたために彼女が自分の目の前に来ていることに気づいていなかった陽一は体をびくっと震わせ、恐る恐る紗枝の方を見上げた。陽一の目に、初めて見る角度で紗枝の姿が飛び込んでくる。そもそもこんなに紗枝に近づいたことすらないのだ。今、自分をこづいたのが紗枝の足であることに屈辱感を覚えながらも陽一は紗枝の姿に見入ってしまった。つま先からすらりと長い脚、そして性的アピールを打ち消そうとするスクール水着を着ていても隠しきれないほど美しい体のライン、いつもはちらちらと覗き見るだけだった胸のふくらみ。頭がくらくらするほど下から仰ぎ見る紗枝の姿は魅力的だった。
「本当です。こんなことしたのは初めてなんです。だ、だから・・・」
陽一は必死で許してもらえる言葉を探しつつ、再び頭を下げると紗枝に話し続ける。
「だ、誰かに見られたいなんて全然思ってなかったし、ちょっとどうかしてたんです。許してくれるんだったら何でもしますから・・・お、おねがい・・・」
陽一の言葉が途切れた。射精の衝動が襲ってきたのだった。紗枝に悟られないように漏れそうになる声を噛み殺しながら、陽一はかろうじてその衝動を押え込んだ。
(なんでおさまらないんだよぉ。紗枝ちゃんの前で素っ裸で土下座してるっていうのに。ぼくの体はどうなっちゃったんだ・・・)
陽一は抗う様子を見せない。
(もっとやってもだいじょうぶなんだわ)
「なんでもするの?」
陽一の懇願にこう答えたものの、紗枝は半分上の空だった。意識は自分の足先と、眼下にはいつくばる陽一の頭部に集中していた。この足で彼の頭を踏んだらどうだろう? さすがに怒るだろうか?
しかしそんな逡巡は束の間で、気がつくと陽一の返答すら待たずにその白い足は陽一の頭部を床に押しつけていた。
素足の足の裏に陽一の濡れた髪、皮膚の柔らかさ、骨の硬さを感じた。
(私はいま、男のコを踏んでいるんだ。)
あの奇妙な心地よさが再び襲ってきた。
