GIMICさんの作品「Toy Boy」【1 高揚 】
森陽一の通うM高校では校内水泳大会が行われようとしていた。中学時代、水泳部に所属していた陽一にとっては晴れ舞台である。現役の水泳部員は競技には参加できず、裏方に回っているため、彼の敵はほとんどいないはずであった。普段は特に目立たない彼だったが、今日は自分の雄姿をクラスメートに見せられるはずだと密かに張り切っていたのだった。実際、他のクラスメートがしぶしぶ一つか二つの競技に参加しているのに対して彼はクラスで参加者がいない競技を含めてかなりの数の競技にエントリーしていた。
競技は始まり、陽一の思惑通りの結果となっていた。陽一は参加した競技でことごとく1位となり、クラスメートの大歓声を浴びていた。いつもなら見向きもしてもらえない女子生徒の黄色い声援に陽一は酔いしれた。これで彼女もできるかもしれない。思い切ってあの子に声をかけて見ようか。
陽一の参加競技が一段落し、しばらく間が空いた時、陽一はスイミングキャップを無くした事に気づいた。泳いでいる時に外れたのだろうか。まあ、いいや。陽一は教室にもう一つスイミングキャップがあるのを思い出した。ちょうど、次の競技まではかなり時間があるし、今のうちに取ってこよう。
陽一はプールとはグラウンドを挟んで反対側にある校舎に向かって歩きはじめた。
校舎の中に入ると夏とは言え、コンクリートの廊下が裸足の足に冷たかった。しかし、一躍ヒーローとなって高揚した体にはその冷たさが心地よかった。その高揚感が自分の運命を変えようとしている事など、陽一には知る由もなかった。
普段授業を受けている校舎の中を一人水着一つで歩いていると妙な感じがするなと陽一はふと思った。ぞくっと体の中を走るものがあった。(何だろう、この感じ・・)変ではあったが悪い感じではない。
気がつくと陽一は何となく水着に手をかけていた。特に何かをする気持ちがあったわけではない。しかし、それが陽一の中の何かを目ざめさせたようだった。唐突に陽一は今ここで水着を脱いだらどんな気持ちがするだろうと思った。階段を上る足取りがゆっくりになる。どうしたことか胸が高鳴る。先程までの高揚感が違う形の興奮に変わっていくのが感じられる。なぜだかは分からない。
(何してるんだ?)そう思ったが水着にかけていた手が腰の紐を解き始めた。
(こんなところで脱ぐのか?)
陽一は立ち止まった。そして水着をゆっくりと下げはじめた。まず、尻が水着から顔を出す。そして一瞬の躊躇の後、とうとう陽一は水着を足元まで下ろしてしまった。元々、恥ずかしがり屋の陽一は全身がかーっと熱くなるような気がした。なぜか子供のころに見ていた特撮ものの一場面が浮かぶ。
それは悪の秘密結社に捕らえられ、手術台の上で手足を拘束されようとしているシーンだった。幼心になぜかそのシーンに理由の分からない興奮を感じた事を思い出した。
馬鹿じゃないのかと陽一は一瞬我に返った。急いで水着を元のとおりにしようと未を屈めた時、羞恥の根源でもある自分の股間がゆっくりと頭をもたげ始めているのが目に入った。陽一はショックを受けると同時にまた体の中にじいんと得体の知れない感覚が走るのを感じていた。
(あ・・・)
水着を元に戻そうと手を伸ばしたはずなのにが陽一は完全に逆の行動を取っていた。水着を完全に脱ぎ去ってしまったのだ。恥ずかしさにぶるっと体が震える。
(だめだよ、こんなことしちゃ。やめなきゃ。早くやめなきゃ・・でも・・)
どくんどくんと鼓動は早くなる。
(誰かが来たらどうするんだ・・)
しかし、陽一は全裸のまま階段を再び上りはじめてしまった。
一段上るごとに何ともいえない感情が込み上げてくる。
(恥ずかしいのに・・こんなに恥ずかしい事してるのに。もっと恥ずかしい目にあいたくなってくる・・)
やがて陽一は2階に到着した。目の前に教室がずらりと並んでいる。陽一の教室はこのまま階段を3階へと上がったところにある。
(早く階段を上がってしまうんだ。2階に誰かがいたらどうするんだ。)
もはや陽一は自分の行動をコントロールできなくなっていた。陽一の足は教室の並ぶ廊下の方へと向かう。陽一は今やこの変態行為に取り憑かれているようだった。5つの教室の前を通り過ぎれば校舎の反対側の階段にたどり着く事になる。そして、その階段を3階へと上がると陽一の教室までまた4つの教室の前を通ることになる。つまり、2階と3階にある全ての教室の前を通ることになるのだった。ひとつ、またひとつと教室の前を通るたびに陽一の体は興奮に震えた。
(恥ずかしいよぉ。でも・・でもなんだか・・・)
そして、ようやく2階のもうひとつの階段へとたどり着いた時、陽一は手にした水着を見つめた。
(あ、ダメじゃないか、こんな物を持ってちゃ。誰かに見つかったら、これで隠せちゃうだろ?)
陽一は水着の足を通す部分から胴の方へと左手を通した。そして、それをねじってみる。水着は瞬く間にロープのように変化していき、左手の手首が締めつけられていった。続いて両手を後に回して、ロープと化した水着にわずかに残った小さな穴、つまりもう一方の足を通す部分に右手をこじ入れるようにして通した。陽一は全裸で後ろ手に縛られたような姿になってしまった。これで急には恥ずかしい部分を隠したりできない。また、陽一は全身が熱くなるのを感じた。
(ほら、これでもうお前は恥ずかしくても隠せないだろ)
心の中でそうつぶやいてみるといっそうむず痒いような快感が走る。
その時、階段の窓からプールの歓声が聞こえて来た。陽一はその歓声に思わず振り向いた。窓からプールが見える。ぶるっと陽一の体が震えた。今この瞬間にも自分を見つめている生徒がいるかもしれない。そう思った次の瞬間、陽一はプールのある側に体の向きを変え、もし覗いているものがいるのなら、ペニスが見えるようにしていた。
(ばかっ。自分から見られるようにするなんて何を考えているんだ)
そして、後ろ向きのまま、階段を上っていった。陽一はどんどん自分を追い詰めて行く衝動に駆られていた。
階段を上り詰めた陽一は3階の教室の方へと歩き出した。2階では一つの教室に近づくたびに興奮が高まったが、もはやそれでは物足りない。もし、教室に誰かがいた場合に、陽一よりも先にその生徒に発見されるように、教室に近づくたびに目を閉じて歩いた。発見された場合に絶対に隠したりできない、その不安感が再び陽一に興奮をもたらした。(ほら、もうどうしようもないだろ?恥ずかしいだろう?)
自分の教室に着いた時、陽一は深くため息をついた。恥ずかしさと誰かに見られたらという緊張感から一瞬解放され、陽一は現実の世界に戻ってきた。
(なんてことをしてしまったんだろう。ぼくは変態になっちゃったのか?でも、とにかく誰にも見つからなくてよかった。とにかく早くプールへ戻ろう。)
そう思いながら陽一は両手の戒めを解き、スイミングキャップを鞄から取り出してかぶった。
今さらながら全裸で教室にいる恥ずかしさを感じながら陽一は水着を手にとって片足を上げる。ぞくっ。陽一の背中を悪寒にも似た何かが走った。
(でも・・気持ちよかった・・・)
足は水着に通されることなく下ろされ、水着にまた両腕が通された。陽一の両手は先程よりいっそう固く拘束され、また陽一は教室を出ていった。
(校舎には誰もいなかったんだし、もう一度だけ・・・)
