太郎冠者さんの作品 1
「お仕置き」
高校受験のシーズンも終わった3月のある日、中学3年の武藤誠司はパラパラと高校受験案内の本をめくっていた。誠司は中学1年生の頃から都内の某有名塾へ通っており成績は優秀であり、難関校と呼ばれる高校をあちこち受験したのだが全て落ちてしまった。滑り止めにと思い受けた高校もダメだったのである。高校へ行くと確信して勉強してきた誠司には就職など考えられず、どこでもいいから今からでも入れる高校を探していたのである。
さすがに新学期まで1ヶ月もない時期とあって、いまだに募集している高校は見つからなかった。何度も読み返しても同じことだった。誠司の両親は、塾に通って大検を受けることを勧めたが、誠司はそれはそれで面白くないと思っていた。
今度は何気なく新聞を読んでみると、普通の広告に混じって高校の募集広告が載っているのが目に止まった。私立正明高校、募集人員は男女若干名。聞いたこともない高校だったが、誠司は早速その高校に連絡をとり、詳細を聞いた。入学試験は希望者があれば入学式の3日前までならいつでも行っているというので、明日受けに行くという約束をした。一定以上の学力があれば誰でも入れるという話だった。
次の日、誠司は正明高校のある東京近郊の駅に自宅から2時間かけて到着した。話では午前9時に駅へ迎えが来てくれるということになっていた。時刻は8時30分を過ぎた頃だった。駅前はがらんとし、時折出勤するであろうと思われる人が駅に入っていく程度だった。駅前でボーっと立って待つこと15分、ターミナルに1台の車が現れた。9時までにはまだ時間があったが、誠司はおそらくその車が迎えのものであると思った。
車は誠司の近くに止まり、中から20代半ばのスーツ姿の女性が出てきた。彼女は誠司に近づくと、
「武藤誠司様でいらっしゃいますか?」
と訪ねた。誠司は
「はい」
と答えると車へと案内された。車は誠司を乗せ山の方へと向かった。車はどちらかといえば高級車の部類に属すものと思われ、乗り心地は良かった。
相変わらず車の中は無言のままであったが、30分ほど走ると山の中腹に校舎と思しき建物が見えてきた。
「あそこがうちの学校です。」
女性が言った。それよりも誠司は毎朝こんな遠いところへ3年間も通うことができるのかどうか考えていた。
車は私立正明高校の表玄関の前に止まった。春休みだからなのだろうか、校舎はしんと静まり返っていた。
「こちらへ。」
誠司は言われるまま女性についていった。校内は最近改装したらしく、極めてきれいであった。たくさんある教室の中の一室に案内され、女性は好きな席に座って待つように言うと、どこかへ行ってしまった。
普通の教室だった。おそらくここで試験が行われるのだろう。誠司は一番前の真ん中の席に座った。その席と向かい合わせに台が置いてあった。教室でよく見かける台である。おそらく監督の人間がこの台を利用すると考え、手間を少なくすべくここの席を選んだのだ。
筆記用具を準備していると、さっきの女性が問題用紙と思われるものを持ってやってきた。
「国語、英語、数学の順番で、各50分です。」
と言うと、誠司に国語の問題用紙と解答用紙を渡した。
「始め。」
誠司は折り畳まれていた問題用紙を広げ、問題を解き始めた。女性は台のところへ椅子を持ってきて座り、本を読んで待っていた。試験は今までやってきた入試の問題と比べるとかなり簡単であった。英語、数学も同じように簡単で、特に数学は満点だろうと誠司は確信した。応用問題はほとんど無く、簡単に検算ができるものばかりだったからだ。
全ての試験を終えると、女性は「すぐに結果が出ますので、10分ほどお待ちください」と言い残し、解答用紙を持って出ていった。誠司はなんといい加減な試験だろうと思ったが、今はとにかく高校に入れればいいという気持ちだったので早く結果が知りたかった。と言っても大方、合格だろうと予想はついていた。
10分も経たないうちに女性が大きい封筒を持って戻ってきた。
「おめでとうございます。合格です。」
封筒を手渡すと、
「入学する場合は所定の書類を郵送してください。」
と言った。帰りも駅まで車で送ってもらい、礼を言い、帰宅の途についた。なんとも事務的な女性だ、誠司は思った。
家に着くと、誠司は合格した旨を両親に伝えた。両親は予想したよりは喜ばなかった。そして渡された封筒の中を見た。『学校説明』と書かれた冊子を開き読みすすめていった。「本校の特徴」という項目で一瞬目を疑った。「本校は完全寮制で、きめ細かい教育を行っております。」
誠司は
「お母さん、この学校全寮制なんだって」
母親は
「あ、そう」
とだけ答えた。父親と目を合わせると
「おまえの好きなようにしろ。こっちは金を払うだけだ」
と言った。誠司はしばらく悩んだが、親元を離れて暮らすことに魅力を感じ、入学することに決めた。入学に必要な書類を書き、明日には送れるように準備した。
次の日の朝、誠司は母親に書類の入った封筒を渡し、速達で送ってくれるように頼んだ。それを受けて母親は郵便局へと出かけた。誠司は入寮に備えて準備を始めた。「制服とか作るのかな?」と思い、また『学校説明』を読んでみた。「制服・体育着等は入学の際にお渡しいたします。予め身長・座高・胸囲・体重を学校へ報告しておいてください。」と書かれていた。誠司は自分でメジャーを使い測定した。誠司の体格はいたって平均的な中学生のものであった。学校へ電話をすると、
「はい、正明高校です」
と女性の声が聞こえた。
「あの、昨日試験を受けて入学することになった武藤というものですが、制服の件で・・・」
「あ、はい。サイズのご報告ですね。ちょっと待ってください、えーっと名簿にお名前が無いんですが・・・」「今日、書類を郵送したんですけど、たぶん明日には着くと思うんですが・・・」
「わかりました。じゃあ、書類が到着し次第、手続きをします。サイズをどうぞ。」
「えーっと、身長が165cm、胸囲が80cm、体重が55kgです。」
「座高はわかりますか?」
「あ、座高は87cmです。」
「わかりました。それじゃあ、発注しておきます。お渡しは入学式当日の朝になります。」
「実際に試着とかしなくてもいいんですか?」
「ええ、今教えていただいた情報だけでもだいたいの体格がわかりますので。」
「そうなんですか。わかりました。ありがとうございます。」
「それでは失礼ます。」
これで、とりあえず入学前の手続きはだいたい終わった。誠司はなんだかホッとすると同時に妙な胸騒ぎを感じた。
翌日、中学校の卒業式のため学校へ行った。ずっと塾に通っており、中学校に対してはあまり愛着がわかない誠司であったが、楽しみもあった。同じクラスの三浦早紀を眺めることである。3年間思いを募らせて結局なにもないまま終わることに誠司はやりきれなさを感じていた。
早紀を目で探していると、担任が不安そうな顔をして誠司に近づき、
「武藤、進学先はどうなった?まだきまってないのか?」
と訪ねた。誠司は
「正明高校というところに決めました。」
「そうか、内随曹ニか、また必要だろ、帰りにでも取りに来い。」
どうやら教師もこの高校について知らないようだ。
「いや、内随曹ニかは必要ないみたいです。中学校側から送る書類は見あたりませんでした。」
「ああ、わかった。とにかく行くところが決まって一安心だな。」
そっけない式は昼前に終わり、誠司は帰宅した。その日は結局早紀の姿さえ見ることができなかった。
帰宅すると母親から電話があったことを知らされた。正明高校からである。内容は、最初に登校してもらうのは入学式当日の4月6日。場所の関係上親は同伴できないということ。必要なものは寮にそろっているので手ぶらでもかまわないとのことだった。その翌日には、はがきが届き入学式当日持ってくるように書かれていた。
4月6日まで誠司はだらだらと過ごした。昼過ぎまで寝て、夜遅くまでテレビを見る、この繰り返しであった。当日は駅に朝8時までに着かなくてはいけなかったので、始発で行くことにした。今回は駅から学校まで直通バスが出るということだった。
始発電車は客がチラホラとしか乗っていなかったが、正明高校がある駅が近づくにつれて新入生と思しき乗客が目立つようになってきた。駅に着くと電車を降り、ターミナルへ向かった。ターミナルには50人乗りの観光バスが3台停まっていた。
「はがきの番号が1~25の人は1号車、他の人は2,3号車に乗ってください。」
拡声器を通した声が駅前に響いていた。誠司ははがきを確認すると149番。なぜこのような分類になっているのかわからないが、1~25の25人というのは特待生か何かだろうと察した。
誠司は2号車に乗り込み、空席を探した。見回してみるとかまだ5,6人しかいない。誠司は後ろの方の席に腰を下ろした。8時までに来いと言っていたから、8時過ぎに発車するのだろう。時計を見るとまだ7時40分だった。誠司は前の日も深夜までテレビを見ていたせいか眠気におそわれた。
誠司の目が覚めると、バスは学校へ向けて走っている途中だった。前来たときの状況から考えてあと5分で到着すると予想した。校門の手前まで来るとバスが止まり、同乗していた学校関係者と思われる女性がカーテンを閉めるように指示した。誠司は理由がわからないまま自席のカーテンを閉めた。全部カーテンが閉まったのを確認するとその女性は運転手にバスを進めるよう指示した。しばらく行くとバスが止まった。フロントガラスから見える風景からバスは校内に停車しているとかった。すると、また女性が、
「前から1人ずつ降りてもらいます。指示された人から降りてください。荷物は置いていってください。」
ドアが開いた。一番前の左側のシートに座っていた女の子が降りるように言われ、降りた。降りるとすぐにドアが閉められた。しばらくするとまたドアが開き次の人、という形だ。ドアが閉められ次が開かれるまで30秒もかからなかった、が、降りた人になにが起きているのか誠司には分からなかった。いよいよ誠司が女性に指をさされ、降りる番となった。
誠司は足をかすかにふるわせながら、通路を歩いていった。バスから降りると太陽の光がまぶしかった。バスのドアが閉められた。横には案内の女性がいてはがきの番号を確認すると、誠司の正面のドアを指さし、そこへ入れと指示した。誠司は言われたとおりそのドアを開けて中へ入った。ドアを開けると中は暗闇だった。そして手と足に異変を感じた。そして別のドアが開けられそこから投げ出された。一瞬の出来事だったので何がなんだかわからなかった。待ちかまえていたかのように女性が現れ、誠司を起こした。次の瞬間誠司は固まった。革製の手錠と足枷が装着されていたのである。本能的にそれをはずそうとするが、今度は背中に痛みが走った。
「余計なことすると怪我するわよ。」
振り向くと、鞭を持った別の女性が立っていた。誠司を起こした女性が、
「ついていらっしゃい。」
誠司は足枷でつながれた足を小刻みに動かしながらついていくしかなかった。そのスーツを着た女性の手にも鞭が握られていた。
長い廊下の両側にはドアがたくさん並んでいた。中の様子は全く伺い知ることができなかった。
廊下の行き当たりが近くなってきて、一番端のドアの前に着くと、女性が、
「ここがあなたの部屋よ。」
と言った。ドアには「146~150」と書かれた紙が唐轤黷トおり、番号の下には「担当奈々子」と書かれていた。
鍵を回してドアを開けると、中は6畳の畳敷きの部屋になっていた。入ると下駄箱があり、トイレと思われるドアがあった。女性は奥の6畳敷き部分のところにあるクローゼットを開けると、
「着替えなさい。」
と言うと、「149」と書かれたタグの付いたセーラー服を取り出した。紺色を基調としたごく一般的なセーラー服である。が、誠司にとっては一般的ではないのは言うまでもなかった。
「えっ!それって女物ですよ。」
誠司は反射的に言った
「ちゃんと着ないと、また痛い思いをするわよ。」
女性は鞭を握りながら言った。
誠司はしばらく黙っていたが、女性は手錠・足枷の鍵を誠司に渡すと部屋から出ていった。鍵をかける音がした。誠司の頭の中はパニックに陥っていた。「ここは高校じゃなかったっけ、何が起きているんだ。」誠司はとりあえず手錠と足枷を外した。
