ごんたさんの作品「底冷えの部屋」

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あ~、寒い。底冷えのする石牢のような部屋に閉じ込められて何回目の冬が終わろうとしているのか。

遠くで、草葉が揺れるのを見たような気がした。幻か、、、。

また揺れた。人間だ。誰かが来る。

私の胸は期待に沸き始める。片手に花束、黒の革のコート、以前より一段とエレガントになった美沙子さんである。

そうだ、今日は、年に1度の儀式の日であった。

彼女は、私の部屋の前で止まった。

いつものように花束を私の部屋に投げつける。花弁が、ゆっくりと飛び散る。

彼女は、バッグから長細い黒革の箱を取り出した。

私も中に何が入っているか分かっている。あの時の一本鞭である。

彼女は、鞭の柄をしっかりと握る。鞭になじむため少しずつ動かし始める。

ピシッ、ピシッ。音がはっきりと大きくなり始める。鞭の先端が空気を切り始める。

これだけ自由に鞭を使いこなせる女性は私の人生の中で彼女しか居なかった。

鞭が周りの空気を割り始めた。彼女の腕と鞭が一体になった瞬間である。

さあ、いよいよ儀式もクライマックスを迎える。私がこの暗い部屋に閉じ込められた唯一の褒美を貰う時がきた。

彼女の体が大きくしなる。

やや遅れて鞭を持った腕がしなり、鞭そのものがしなる。三位一体の美しさである。

空気を切る音、直後に鞭の先端が、私が住んでいる部屋の外壁に絡みつく。

儀式は終わった。

美沙子さんは早々に身支度を整え、後姿を見せたと思うと、徐々に小さくなり、いつのまにか消えた。

来年の私の命日にも、またこのようにご褒美をくれるのであろうか。

私の人生最後の日のことを、薄らぐ記憶の中、必死に思い出してみた。

その日まで戻るには、5年遡らければならない。

2月中旬のやや暖かい日であった。美沙子さんからの2回目の調教の日である。

前回の調教は1本鞭10回のみの、短い調教ではあったが極めて中身の濃いものであった。

2回目の今日は、時間無制限、体力の続く限り、私自身、人生最後の日であるという予感を抱いての調教である。

今回は前回の半裸から全裸での調教に昇格。美沙子さん自身も、最後の調教であるという予感があるのか、長身の私に合わせるかのように背伸びをして、やさしく目隠しをしてくれた。口にはハンカチを押し込む。

私は膝まづいて、両手を床につける。受け入れ態勢完了である。

美沙子さんも、革のコスチュームのまま、鞭を解き始める。

私の胸は徐々に昂まりはじめ、それに呼応するかのように股間も硬直している。

お互いに緊張し、終始無言である。

彼女は、鞭の柄を何度か握り直しながら、一番フィットするポイントをみつけていた。

最初は手首だけをしならせながら、軽く鞭の先端が床を叩いていた。私の興奮はさらに高まる。彼女もだいぶ鞭になじんできたのか、腕全体をしならせ、さらに床を叩く。

だんだん音の発生源が近づいてきたのを感じた。正確さが増してきたようである。

徐々に音自身も大きくなり、さらに空気を切る音も加わり、彼女と鞭がひとつになったことが目隠しをされた状態でも感じ取れた。

彼女は私の周りの床を叩き始める。恐怖と歓喜が入り混じる。

時折鞭が私の体を掠り始める。痛烈な痛さによるうめき声を発するともに喜びの嗚咽が漏れる。

彼女が鞭を振り下ろすたびに私の股間は脈打つ。彼女の息遣いも荒くなって来た。

鞭の動きが一瞬止まった。次に起こることは既に私にはわかっている。緊張がピークに達した。

次の瞬間、鞭が私の背中を直撃した。

位置を確認するための一撃だったのか、それほど力は入っていなにも関わらず、強烈な痛みと恐怖心を感じた。

そして、次の一撃を予感して股間の怒張も最高潮を迎える。

一瞬の間合いの後、今までで最も大きい空気が避ける音とともに、鞭の先端がゆっくりと私の背中に絡みつく。

私はこらえきれずに歓喜の嗚咽を漏らすと同時に股間から放出されたものが、私の顔にかかる。

粗相したことを見た美沙子さんは、思いっきり私の股間を蹴る。

激痛とともに、私は転がった。

容赦なく鞭の雨が降り注ぐ。

何とか四つん這いの状態まで体を立て直す。

鞭に打たれながら、私の股間は再度膨らみを持ち始める。

美沙子さんも徐々に興奮し始めた。

一段と、鞭を持つ彼女の手に力が入る。彼女自身、エクスタシーの胎動を感じ始めているようである。

既に私の体力的限界は超えつつある。

本来なら、ここで止めてくれと懇願するべきであろう。だが、今の私は、生涯をMとして全うし、美沙子さんに看取ってもらえるというMとしての至宝の喜びのチャンスを手にできるところまできている。

私は、最後まで貫く道を選んだ。

宴も終焉を迎えた。

美沙子さんは、全身全霊を込めて、会心の鞭を、私の体に撃ちつけるとともに絶頂を極めた。

私は、鞭が空気を切り裂く音を聞いた。

生涯最後に聞いた記念すべき音である。

次の瞬間、既に限界を超えていた私の心臓は動くことを止め、脳だけが辛うじて動いていた。

鞭は、最後を惜しむかのように何度も絡みつく。

私の股間も最後を飾るにふさわしい膨張から、最後の1滴まで放出し役目を終え、脳も40年間の働きを終えた。

最後に放心状態で倒れこんでいる美沙子さんだけが残った。

その後のことは、私は詳しくは知らない。

私の墓前での美沙子さんの話しによると、何もかも本来美沙子さんの専属奴隷であった直人が処理をしてくれたそうである。

妙に嬉しそうに、いつもと違ってテキパキと後始末をする直人が印象的であったそうである。

その後、美沙子さんから直人の名前が出ることもなくなった。

美沙子さんのお幸せを草葉の陰からお祈りしているが、それを伝える術すら失っている。

平成12年2月没享年40歳戒名絵夢道院権鞭太居士

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