叔母の躾
小学生の時の僕は…周囲の空気を気にする子供だった。
だから学校では優等生というやつで、忘れ物の癖はあったけれど成績面で困った事はない。
頭がいいのではなく、勉強を怠けたままで登校する度量がなかっただけだ。
正直に言えばずいぶん無理をしていた。
本当の僕は面倒臭がりなうえ怠け者。
そんな姿を知る家族はよく僕をからかったが、良い行いをする分には文句は言ってこない。
両親とそれ以外の大人で、僕に対する印象に大きな差異があったのはそのためである。
怠惰な息子は家にいない時は優等生なのだ。
だから両親以外に咎められるなんて経験はほとんどなく、学校で宿題を全部忘れた日も先生にはほとんど叱られなかった。
「誰にでも失敗はあるよ」と…、そう言われただけだった。
ああ、こうすれば楽ができるのか。
普段のイメージを利用して怠ける手段を覚えた僕は、次第に楽ができる方向に引っ張られてしまう。
そんな僕の甘ったれた心根を吹き飛ばしてくれたのは、叔母の存在だった。
ちょうど母に夜勤の仕事が決まり、月に何度かは叔母の家に預けられるようになった。
主な目的は僕の監視である。
両親は僕の怠け癖を知っていたので、監督役が居なければどうなるかの見当はついていた。
叔母も大学生の長女と僕より幼い次女の親なので、任せるにはうってつけだと思ったのだろう。
事実、適任すぎるほど適任だった。
叔母の家に預けられた初日の事である。
「今日はもう宿題やった?」
夕方の手持ちぶさたにしている時間だった。
しかし僕は明日の朝まで満喫するつもりでいて「うーん」と曖昧に聞き流すだけ。
優等生な僕のイメージは叔母にも通用すると思っていたからだ。
叔母もここでは怒らず「晩ご飯までに済ませてね」と優しく諭すのだった。
ところが。
表が暗くなり始め、食卓の準備が整ったところで叔母が再び僕を呼んだ。
「宿題、どうしたの?」
「えっ…、あ、まだ…」
「そう…、2階へいらっしゃい」
そう言って叔母は先に2階へ行ってしまった。
ちょうど食卓についたばかりだった次女が声をかけてくる。
「お兄ちゃん、お尻叩かれるよ」
「えっ、嘘」
「嘘じゃないもん、2階の端の部屋だよ…頑張ってね」
怒られるだろうとは雰囲気で察していたが、お尻叩きなどとは想像もしていなかった。
次女にからかわれたのだと自分に言い聞かせてみたが、聞いた通りの部屋に叔母はいた。
この時点で、お尻を叩かれるという話が現実味を帯びすぎてしまった。
「ドア閉めて」
「…」
「早く、ご飯冷めちゃうでしょ?」
日常のフレーズにも怒気が感じられる。
何とかして言い逃れる術はないかと考えているうちに、叔母の方から素早い指示が飛んだ。
「お尻叩くから、ズボン下ろして」
「え…」
「え、じゃなくてね…、宿題しなかったんでしょ?晩ご飯までに」
「でも、聞いてない…」
「何が?」
「その、お尻叩かれるなんて…」
「だから今から教えてあげるわよ」
話が噛み合わない。
それまではこんな形で接する機会はなかったのだが、恐らく苦手なタイプだ。
しかし僕がどう思ったところで、今の状況をなしにするのは無理があった。
「ベッドに伏せて、お尻を上げなさい」
(…こ、こんな体勢…!?)
それは子供の僕でさえ、羞恥から赤面してしまうような姿勢だった。
四つん這いから両肘をついて頭を伏せ、お尻だけを高らかに上げて罰を待つ。
下着は叔母によって下ろされてしまった。
後ろから見れば、肛門まで丸見えのはずだ。
「それで、いつまでにやるの」
「え…?」
「またそれ?もういいわ…」
ぴしゃり、叔母の平手打ちが僕の尻肉に炸裂し、ぶるんと震えた。
「うわあぁっ!?」
「何よ、男の子なんだし大きい声ださないの!」
言ってぱぁん、ばしぃん、ぴしゃっ…、と連発打ち。
僕は痛みに弱かったのだと、この時初めて自覚した。
「痛いフリしてる暇があったら、今日からどうしたらいいのか考えなさい!」
本当に痛いという言葉は信用してもらえなかった。
20回、30回…と続いた平手打ちは50数回目でようやく止まり、「ご飯を食べたらすぐやる」という約束の下でようやく許される事になった。
「寝る前にチェックするから、早めにね」
「えっ、…あっ…、はい…」
叩き終えると、あとは普段と変わらない叔母だった。
まだ自分の置かれる状況が完全には理解できていない僕に、ご飯を食べてお風呂に入った後でいいよ、と付け加える気遣いも忘れない。
食卓に戻った僕はそれを待っていた次女に色々と聞かれた。
「どうだった?」
「どうって…」
「何回?何回?」
「わ、わからない」
本当は次女に言われて50数回と数えていたのだが、何となく教えなかった。
次女は不満そうな顔をしたが、叔母に聞こえたら叱られるのだろう。
僕が答えそうにないとわかると「ごちそうさま」と言い残して部屋に戻ってしまった。
1人になるとよけいに、打たれたお尻が疼く。
座って体重をかけるとなおさらだ。
「食器は置いといていいから…、どうかした?」
普通に話しかけられただけでビクついてしまった事に、僕は自分でも驚いてしまった。
家族以外で僕を優等生として見てくれない存在。
ふるまいを正してくれる環境がこうして整ったのである。
