マゾ豚
Oリングギャグ、コルセット首輪、コックハーネス、アナル栓、そして、アームザック。
革足枷の鎖が、アームザック先端のリングに通されているので、立ちあがることができない。
身じろぎすると、口腔内に溜まった唾液が、とどめようもなく、したたり落ちる。
コックハーネスに締めあげられたペニス先端からも、カウパー腺液が、したたっているに違いない。
コルセット首輪のせいで、下げることのできない目線の先に、乗馬服の女が立っていた。
女は、右脚から左脚に重心を移す。
ブーツの拍車がかすかに鳴った。
女が、その手の乗馬鞭を振りあげた。
思わず、全身を固くする。
が、予想に反して、鞭は振りおろされず、ゆっくり頬に着地した。
鞭の先端が、そのまま横に移動して、Oリングギャグの穴から、口腔内に侵入した。
生まれて初めて、革の味を知った。
革の匂いが、鼻腔へぬけていく。
鞭に押されて、溜まっていた唾液が、口蓋垂を刺激する。
「おあっ」
空えずきが出る。
涙が出る。
鞭は撤退していったが、革の味、革の匂いはそのまま残った。
唾液に濡れた鞭の先端は、額から眉間になすりつけられた。
コックハーネスの中で、ペニスが屹立しているのが、ありありと感じられる。
女は、それを見ているはずだ。
全身が熱くなる。
身を起こそうとするが、鎖に食い止められる。
大量の唾液が口腔からあふれて、腿の上にボトボト落ちる。
女が笑った。
「なんて恥ずかしいマゾ男なの」
女が離れていく。
ベランダへのカーテンの前に立つ。
カーテンの向こうから、聞き慣れた騒音が響いてきた。
女がカーテンに手をかける。
目の前の高架を列車が走っているはずだ。
カーテンを開ければ、何百もの乗客にこの姿をさらすことになる。
結局、カーテンが開けられることはなかった。
女は、再び近づいてくると、鼻先を思いきり指ではじいた。
「あおお」
涙があふれて、鼻水がとどめられない。
そんなことにはおかまいなしに、ぎっちり鼻フックを装着されてしまった。
ますます鼻腔を刺激されて、涙と鼻水とよだれで顔面はぐちょぐちょになった。
女は、僕の腿をまたぐように立ちあがると、唇をうすく開いた。
そこからしたたった唾液が、僕の眉間に命中した。
「あああああ」
それでも、ペニスは屹立をやめなかった。
むしろ、射精できないのが、もどかしい。
腕を自由にしてくれ。
必死に不自由な身体をゆすぶる。
女が笑っている。
また、唾液が降ってくる。
ギャグで開きっぱなしの口に入る。
僕は自然にそれを飲みくだしていた。
「あおっあおっあおっ」
僕は身体をゆすぶる。
どうしても、射精できない。
「お前は、とんでもないマゾ豚だね。人間の尊厳なんて、かけらも無い。ただもう、イキたいだけなんだろう」
女のブーツが、僕の股間を踏みにじる。
「あおっあおっ」
拍車が腿にめり込み、つま先がペニスとホーデンを踏みつける。
女がつま先をぐりぐりねじ込んでくる。
「あおっ、おおお」
その時、女が僕を鞭打った。
僕は硬直し、次の瞬間、射精していた。
全身から汗が吹き出した。
全身がガクガクするのを止められない。
口から大量のよだれがあふれ出た。
「そんなに気持ちよかったのかい。この汚らしいマゾ豚が」
女は鼻フックの革ひもをぐいと引いた。
「はあが」
Oリングギャグは自分で着けることができる。コルセット首輪も自分で着けることができる。コックハーネスも自分で着けることができる。
アナル栓も、なんとか自分で押しこめる。
でも、アームザックだけは、自力ではなんともならない。
で、芸大の後輩でもある、亜紀にたのみ込んだというわけだ。
簡単な筋立ては、シナリオにしてあったが、セリフはすべて、亜紀のアドリブだ。
衣装も亜紀のアイデアで、彼女の私物の乗馬服になった。
亜紀は鞭も持ってきていたが、さすがに本物でぶたれるのは怖かった。
で、人間用(SM用)の乗馬鞭を使ってもらった。
「ああっああっああっ」
「どうしたの、マゾ豚さん」
亜紀は衣装の乗馬服を着たままだったが、ソファーでくつろいでいた。
それに引きかえ、僕はあのまま放置されていた。
全身、自分が出したあらゆる体液で、ドロドロで、気持ち悪くてたまらなかった。
「あああーっ」
亜紀はやっと立って来てくれた。
「どうしてほしいの?」
「あああーっ」
「鞭? 唾? またチンチンを踏みにじってほしい? 鼻フック、引っぱるの? もしかして、モノホンでぶたれたい? いいわよォ」
亜紀が鞭で、自分の手のひらを軽く打つ。
ピシリといい音がする。
「ああっああっああっ」
僕は必死に自由にならない首を振った。
「マゾ豚さんの言葉は、全然わかんない」
亜紀はやっと僕の後頭部に手を回すと、Oリングギャグのバックルをはずしてくれた。
同時に鼻フックもゆるんだ。
でも、自力でOリングギャグを吐き出すことができなかった。
亜紀がギャグを引き出してくれて、やっと口が自由になった。
「もうそろそろ、はずしてもらってもいいかなあ?」
「なんだ、そういうこと。マゾ豚さんは、人間にもどりたいわけね」
亜紀は後ろに回って、アームザックのストラップをほどいてくれた。
それであとは、自力でなんとかなるはずだったが、全然、身体に力が入らなかった。
結局、コルセット首輪もコックハーネスもアナル栓も全部、亜紀にはずしてもらった。
ふらふらでユニットバスまで行き、半分乾いてねばりつくいろいろな体液を、シャワーできれいに洗い流した。
しかし、湯気でくもる鏡の中に、まだマゾ豚が立っていた。
口の両側にはギャグのベルトの跡がくっきり残っていたし、鼻の穴はフックの跡で少し上を向き、額には革ひもの跡がまっすぐについていた。
首は錯覚だろうが細長く伸びたように見え、鎖骨の上あたりに首輪がすれた跡がぐるっととり巻いていた。
コックハーネスの跡は両そけい部に残り、両足首には太いベルトと鋲の跡が残っていた。
束縛はすべて無くなったが、僕はマゾ豚のままだった。
身体をぬぐい、そのまま全裸で、亜紀のいるところへもどった。
「おかえり、マゾ豚さん」
亜紀が言った。
僕は再び、Oリングギャグ、コルセット首輪、コックハーネス、アナル栓、アームザックを装着されていった。
そして、鼻フック、もうペニスはギンギンに屹立していた。
すべて前回よりきつくしめあげないとフィットしないようだった。
それらは僕の体液でよごれたままだったが、亜紀は気にする様子もなかった。
「私の家に行ってみない? もっときもちよくさせてあげられるよ」
僕はじっとしていた。うなずくとよだれがあふれる。
「それはOKということ?」
亜紀は自分が着て来たロングコートを僕に羽織らせた。そしてフードをかぶせると、そでを前面で結びあわせた。
亜紀は鞭を手に持って、僕を玄関まで誘導した。
「ちょっと待って」
亜紀は部屋の中から革足枷を取ってくると僕に装着した。
「それじゃ、行きましょうか」
はだしで外廊下を歩くのは初めてだった。
冷たい床面をひきずる鎖の音が響く。
亜紀は乗馬服姿で鞭を手に、拍車を鳴らして歩いていた。
エレベーターに乗った。
一階ホールは無人だった。
亜紀はどんどん先へ行く。
僕はその亜紀に必死について行く。
足枷で歩幅がとれない、ギチギチに束縛された上半身はうまく動かせない。
先に亜紀が自動ドアからマンションの外へ出た。
僕もそれについて外へ出る。
背後でオートロックの自動ドアが閉まった。
目の前に黒い大型乗用車が止まっていた。
亜紀がその車のドアを開けて乗り込む。
「さっき呼んでおいたの。さあ、乗って」
僕はためらった。こんなつもりではなかった。もっと普通に亜紀の家へ行くつもりだった。しかし、もう亜紀の助けなしでは、部屋にももどれない。最悪なのは、亜紀にこのまま帰られてしまうことだ。
僕は亜紀に頭を押さえられながら、自由のない身体を必死に折り曲げ、車に乗り込んだ。
閉じられない口からあふれた大量のよだれで亜紀のコートは台無しになった。
「家へ行ってちょうだい」
亜紀が運転席へ声を掛けた。
「はい、かしこまりました」
当たり前だが驚いた。誰かが運転してきたはずだ。
車が動き出した。
顔をそむけたかったが無理だった。全身から汗が吹き出してきた。
「大丈夫、この人は気にしない人だから」
亜紀が言った。
車は川沿いの裏道をしばらく走って、広い旧街道に出た。
旧街道をこのまま北上すると、人家のとぎれるあたりに、確か、ラブホテルがあったはずだ。
案の定、中世ヨーロッパ城郭を模した建物が見えてくる。
車はその前を通り過ぎる、かと思いきや、その敷地内に入っていく。
車は、ホテルの正面車寄せに停まった。
運転手は僕たちをそこで降ろすと、旧街道には戻らず、敷地のさらに奥へと車を走らせて行った。
エントランスを入ると、かなり小振りだが、通常のホテル同様の光景があった。
正面に見えるフロントブースの若い女性が驚いてこっちを見ている。
当たり前だ。女性用ロングコートを羽織り鎖を引きずったはだしの男が、乗馬服姿の鞭を手にした女に連れられて、入って来たのだ。
亜紀はそんな事お構いなしに、フロントへ向かって歩いて行く。
フロントの女性がはっとするのが見えた。
「あっ、お帰りなさい」
女性は亜紀にそう言った。どういう事だ。
二人が何か小声で話している。
フロントの女性が何か奥から出して来て、亜紀に手渡した。
亜紀が戻って来る。何かを小わきに抱えている。
亜紀が僕の羽織っているコートの、結んであったそでをほどいた。
コートのはだけたすき間に手を突っ込んで何かしている。ちょうど僕の股間のあたりだ。
カチッと金属音がした。亜紀が離れて行く。僕の股間からひも状の物が亜紀の手元へ伸びていく。それが伸び切った。
僕は股間をぐんと引っ張られた。
亜紀が向こうを向いて歩いて行く。僕は股間をぐいぐい引っ張られて亜紀の後からついて行く。
コックハーネスの金属部分にリードを付けられてしまったようだ。
僕はフロントブースの前まで引っ立てられて行った。
亜紀はそこで僕からコートをはぎ取った。
「ああおおお」
僕はマゾ豚姿、全裸にOリングギャグ、鼻フック、コルセット首輪、コックハーネス、アナル栓、革足枷、アームザックで拘束され、コックハーネスのリードで引っ立てられる姿を、初対面の若い女性に見られてしまった。
「これ、クリーニングしておいて」
亜紀がコートを渡しながら言った。
「わかりました」
女性がコートを受け取りながら答えた。
ただそれだけ、女性にとってマゾ豚の僕など、眼中に無いかのようだった。
亜紀はエレベーターに向かう。僕は股間で引っ立てられて、ついて行くしかない。
二人はエレベーターに乗った。
「恥ずかしかった?」
亜紀はそう言いながら、操作パネルに何かキーを差し込んだ。
「あの子もこんなホテルのフロントをやってるぐらいだから」
エレベーターが下へ動き出す。下矢印、B1、下矢印の順に表示される。エレベーターが止まるとすべての階数表示が消えていた。
「パネルには表示されていない最下階と最上階が、私のプライベートスペースになってるの」
エレベーターのドアが開く。
「ようこそ、わが城へ、マゾ豚さん」
