かさじぞうさんの作品「せい子第2話」

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せい子・第2話「再会」

孝一は、せい子が教鞭を振るう高校を卒業後、地元の大学に進み、中堅事務機器メーカーに就職し、そのメーカーの地元の営業所で営業を担当し3年が経過しようとしていた。

今年、孝一は26歳になる。

人付きあいがお世辞にも上手とは言えない、口下手で気がきかない、決して営業向きとは言えない性格の孝一だったが、営業部においてその存在が必要不可欠とされた理由は、持って生まれたマゾ性から来る自己犠牲を苦とも思わぬ精神と欲のなさにあると言えた。

そんな孝一だったから、営業部においてもどちらかと言うと売り込みや新規開拓といった積極性を必要とする仕事よりも、顧客からの苦情処理を担当する方をほとんど一手に任されていた。

他の営業部員からすればひとつ契約を勝ち取るごとに給与の査定が良くなるのだから、多少強引、あるいはアフターサービスも満足にできないくせに嘘をついてまで客を取り、そのまま次の客探しへと猛進するので、契約締結後、顧客に逃げられないようにするために、彼らがついた嘘を取り繕うために配置された尻ぬぐい的存在が孝一だった。

2月も終わりに近づいたある金曜日、出社直後の孝一を、上司が呼んだ。

「1月いっぱいで退職したNくんが取ってきた英会話学校の事務機器の納入の件、2月いっぱいが納品の期限になっていたんだが、10日ほど遅れるらしいんだ。

それで、そのことをお客に説明に行ってきてほしいんだが、あいにく他の連中はスケジュールがいっぱいだって言うし、Nくんはきみの高校の先輩だっていうことだし、ひとつ、きみが引き受けてくれんかね?」上司はそう言いながら、孝一に考える余地も与えず、契約書と顧客の資料を手渡した。

客から見れば納品が遅れることは他の準備の予定が狂ってしまうことに繋がるのでとても嫌がられることが多く、その結果として、担当者にもかなり苦情が殺到することになる。

まして、今回の場合、契約時の担当者が退職してしまっていないとなれば、客の側から見れば、ころころと担当者が変わっているように見え、責任の所在がはっきりしない、というところでの苦情を言われることも多い。

孝一には、また損な役が自分に押し付けられたという不満があったが、もしかしたら納品先の担当者がS女性かもしれない、などという馬鹿な期待感もあり、どうせ断るだけの甲斐性も勇気もないのだから・・・という気持ちから、引き受けることにした。

「英会話学校が実際に授開校するのは4月に入ってからだという話だし、まだ時間の余裕はあるだろうから、今回はあまりキツイことは言われないで済むと思うよ。

そうそう、この英会話学校の代表者は君らの高校の先生だったということだから、卒業生のN君にとってもきみにとっても何か縁のある商談なのかもしれないよ!・・・・・じゃあ、頼んだよ!」そう言うと、上司は孝一の元から去って行った。

孝一は、上司から預かった資料に目を通して驚いた・・・・・英会話学校の代表者は、なんと、あのせい子だったのだ。

資料によると、せい子が設立した英会話学校は、学生、社会人合わせて生徒数50名程度というどちらかというと小規模なものだった。

駅から歩いて10分程度のところにある小さなマンションの2階のいくつかの部屋のうち3部屋を借り、そのうち2部屋を教室とし、残りの1部屋を事務室的にものとして使い、日本人やアメリカ人女性講師を何名か雇い、もちろん、せい子自身も講師として授業には関与するらしい。

生徒は全員女性を予定しており、パソコンやその周辺機器、AV機器、事務机や椅子など、必要な事務用品のほとんどが孝一の会社に対してすでに発注されていた。

・・・・・高校を卒業して7年、ほとんど毎日のように夢想し、神格化し、憧れつづけてきたせい子に再会できるチャンスが孝一に訪れた・・・・・週に何度かのリーダーの授業の際にぼーっとせい子に見とれていただけの自分を、せい子は果たして覚えていてくれるだろうか・・・・・夢の中でのせい子は孝一に対して「じっくりと時間をかけて楽しむために最後までとっておいた大好物」と言ってくれたが・・・・・。

せい子に対する思いを今でも毎日のように書き綴っている日記の字が心なしか明るく踊っているかのように見えた。

「しかし、なぜ、高校の教師であるはずのせい子が英会話学校を創立したのだろう・・・・」孝一は、せい子に再会できるかもしれないという期待と同時にこの7年の間にせい子に何があったのかについても気になった。

上司から資料を渡された日の夜、孝一は、英会話学校開校の準備が整いつつあるマンションへ向かった。

与えられた仕事の内容が苦情処理なので、普段なら気分は重く早く家へ帰りたいと思うのだが、今日は違った。

英会話学校の事務室へ行けばせい子と再会できるかもしれないという期待の方が大きく、むしろせい子から次から次へと苦情をぶつけられることが目下の自分の最大の楽しみであると言っても過言ではないくらいに気分は高揚していた。

展開次第では明日の日曜日に二人だけで会う機会だって作れるかもしれない・・・・・カーラジオからは音楽が流れてきていたが、今の孝一の頭の中はせい子との再会と今後も会えるきっかけをいかにして作るかという作戦を練ることでいっぱいであり、音楽など耳にすら入ってこなかった。

もうすぐマンションに着くというところまで来て孝一の携帯電話が鳴った。

電話は上司からだった。

用件は「英会話学校の事務室へ来るのは明日の日曜日の昼前くらいにしてくれとの連絡が入った」とのことだった。

その電話の主がせい子なのかどうかはわからない。

孝一は、多少がっかりしたものの、やがて明日の日中にせい子に会えるかもしれないという期待感に心を躍らせた。

その夜、孝一は、一人暮らしのワンルームマンションで、これまでに書き綴ってきた何冊もの日記のあちこちを読み直したり、卒業アルバムのせい子の顔写真を見たりしながら、自分が勝手に作り上げただけの、何の根拠もないサディストせい子のイメージを思い浮かべながら何度も何度もオナニーに耽った。

日曜日の昼前。

英会話学校開校の準備が進むマンションにやってきた孝一は期待どおりせい子との再会を果たすことができた。

孝一としては飛び上がりたいくらいに嬉しいことだったが、そんな気持ちを何とか抑え込み、まず仕事に徹しようとした。

「私どもの不手際により納品が10日ばかり先になってしまい誠に申し訳ありません。

一日も早く納品できるよう努力しますので、どうかお許しください!」孝一は、女王様に許しを乞うマゾ男のごとく、せい子の前で卑屈なまでに頭を下げ、低姿勢で、事務機器の納品が遅れるということを詫び、せい子からの責めの言葉を期待した。

詫びに来た人物が孝一であるということが一目でわかったせい子は、仕事の話は後回しにして、孝一の高校卒業後から現在までのことや近況を聞きたいからと、自分の赤いスポーティクーペの助手席に孝一を乗せ、昼食を兼ねたドライブに誘った。

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