かさじぞうさんの作品「せい子第2-1話」

前のページへ戻る

エアコンが程良く効いている車内での、孝一のいろいろな話から、話題はやがてせい子の近況へと移った。

「僕が卒業してもう7年か・・・先生、もしかして、まだおひとりなんですか?」

「・・・そうなのよ・・・・私、今年でもう35歳よ!・・・どうしようかしら?」

「そんなこと言って・・・・先生は素敵な方ですから誰か良い人がいるんじゃないですか?・・・・結婚なんかしなくても何も不自由ないとか?」

「・・・・・あなたの言っていることは全然はずれよ。実は私、あなたが卒業した1年後くらいに身体を壊して、期間は短かったけど入院生活を送っていたことがあるの。今はもう完全に直ったんだけど、なんだか今の学校にいづらくなってしまって・・・・それてこの3月いっぱいで退職して、いろんな仲間の協力もあって、自分で英会話の学校を起こすことにしたの・・・・」

せい子は力なくそう言うと、意味ありげに静かに笑った。

「20代の頃はまだ生徒もお姉さん扱いしてくれてたけど、30歳を過ぎると完全におばさん扱いで相手にもしてくれないわ・・・・今は毎日授業中に生徒をいじめるのだけが私の生き甲斐になっちゃったわ・・・・今の楽しみはそれだけ。そうやってストレスを解消してるの・・・・・」

孝一は、せい子の口から出た思いがけない言葉に興奮し、もしかするとせい子は本当にサディストなのかもしれないと思い、この会話の流れの中でなんとか自分の想いを伝えるべく言葉を探した。

「・・・・・僕には想像できませんけど、そんなにいじめてるんですか?」「私って気が強いじゃない?・・・だからカッとなると結構見境いなくやっちゃうのよ。例えば授業が始まっているのにいつまでも騒がしいと、静かにしているコも含めて全員を床に座らせて背中で手を組ませて、うるさくしていたコはもちろん、静かにしていた何の罪もないコまでも往復ビンタの雨を降らせるの・・・・試験で赤点取って、何度も何度も追試を受けてるのに、それでも合格点を取れないグズなコなんて、最近は、放課後に誰もいなくなった教室で私の足元に膝まづいて追試を受けてるわ。私は上から見下ろしてて、回答用紙に間違った答えを書くや否やそのコの肩を蹴飛ばしたり、頭をはたいたり、ビンタをくらわせてやってるわ!この前、正解を書いたコに面白半分で肩を蹴飛ばしてやったら、慌てて消しゴムで正解を消して、どうしていいかわからずにオロオロと震えてたわ!・・・・正解がかわらないコなんて最後には許しを哀願するような目で私のことを見上げるの。そんなコには、いくら許しを乞うてもそう簡単には許してあげないからねって、私を見上げるその顔にたっぷりとツバを吐きかけてやりたくなるわ!・・・・・もうおばさんで若い男のコが誰も相手にしてくれなくなった女の、これが恐ろしい現実よ!・・・・・ても、楽しくてやめられないわよ、生徒いじめって・・・・・」

心なしか車のスピードが上がった。せい子はステアリングを握ったまま、自分の話に少し興奮したようだ。言葉を発するその妖艶で形の良い唇が、冷酷さを増したように赤く光る。

「・・・・・なんだかずいぶん過激だなあ・・・・でも、・・・そうかあ・・・僕も今在校生だったなら憧れのせい子先生にそうやっていじめてもらえたんだなあ・・・・・今の生徒たちがうらやましいですよ・・・・いいなあ」

「フフフフ・・・・・かわいい事を言ってくれるじゃない?・・・あなたが今ウチの生徒だったら私も喜んでたっぷりとじっくりといじめてあげたのにねえ・・・」

せい子の目ははるかに遠くを見ている・・・まるで孝一を情け容赦なく弄ぶそのシーンを想像しているかのように・・・・・。

しばらくの間、二人の間の会話が途切れた。

孝一は何かを言い出そうとしてなかなか言い出せずにいた。

一方、せい子には確信があった。正確に言えば、昨日の電話で孝一の上司から教え子だった孝一が詫びに来ると聞いた時点で既に確信めいたものがせい子にはあった。

せい子は、自分の確信を孝一に実現させるための環境を作ろうと、交通量の多い国道から離れ、最近できたばかりでまだ交通量の少ない、周囲の状況を気にせず自分の好きなペースで車を走らせることのできる県道へと車を運んだ。

孝一は、今日、自分が今日まで夢に見続け、実現を熱望してきたことをせい子に打ち明け、懇願すべきかどうか、打ち明けるとしたらどう話せばいいかということを考えるのに没頭していたため、せい子の目論見はもちろんのこと、せい子が道を変えたことすら気付かずにいた。

やがて、孝一は運転しているせい子の横顔に目を移し、横顔全体、目、そして唇へと視線を移した。孝一の視線を感じ取ったせい子は、舌で唇を濡らす仕草をわざと見せつけた。せい子の濡れた唇をうつろな視線で見つめながら、孝一は覚悟を決めて言葉を発した。緊張のあまり、のどが乾き、口の中はカラカラに乾いていた。

「・・・せい子先生、・・・あの・・・い、今からではもう遅いですか?」

見渡す限り周囲には車は一台も走ってはいなかった。

せい子が予想していたとおりの言葉が孝一の口から発せられた。

せい子は、孝一をわざとじらすかのように少し間をおいてから尋ねた。

「・・・それってどういう意味?・・・あなたはいったい私に何が言いたいの?・・・はっきりとおっしゃい!」

せい子は視線を孝一に移し、孝一を睨むように見据えて言った。

孝一は、言い始めた以上もう後へは引けないと覚悟を決め、熱い身体で告白を始めた。

「先生はさっきボーイフレンドのひとりもいないとおっしゃいましたよね。でも、僕は先生にだってひとりくらい自分が自由に扱えるような男がいてもいいと思うんです・・・生徒をいじめるのもいいですけど、そんな子供や未成年なんかじゃなくって、いついかなるときでも自分の責任で、命令には絶対服従するような存在・・・先生が思う存分いじめいたぶり、辱め、弄ぶことができるような存在・・・・先生のなすがままにできる存在・・・ストレスを解消させ、満足を得るための道具、そんな玩具のような存在がひとりくらいいてもいいと思うんです・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・はっきり言います!・・・ぼ、僕はせい子先生の人間玩具になりたいんです!もちろん、本気です!僕をせい子様の奴隷にしてください!・・・僕は在学中からせい子様にいじめ、弄ばれたかったんです!・・・人前では『先生』って呼んでましたけど、本当は、心の中では、あなたは『せい子女王様』だったんです!どうか、今日からは『せい子女王様』って呼ばせてください!・・・・お願いします!お願いします!僕をあなたのおもちゃにしてください!・・・ど、どうか!僕の長年に及ぶ夢を叶えてください!」

孝一はせい子の横顔に懇願し続けた。ここまで言ったからにはもう撤回できない。本気なのだ、昔から想いをつのらせてきたのだ、ということをわかってもらいたいという想いから、口調はだんだん荒くなり、声も大きくなってしまった。

「・・・在学中から昨日まで、せい子様への想いを日記に綴ってきました。約10年分あります。実は今日、せい子様に捧げようと思ってそれも持ってきています」

そう言うと、孝一は後ろの席の大きなバッグに手を伸ばし、バッグごと引き寄せ、座っている自分の両膝の上に置いた。大学ノート数十冊分にもなるその日記の入っているバッグは本来かなりの重さのはずであるが、その重さを感じているような精神的余裕は、今の孝一にはまったくなかった。

孝一の懇願の叫びの後、しばらく沈黙の時間が流れた。沈黙の時間の長さは実際にはほんの短い間のことだったが、せい子に対する想いのすべてを赤裸々にぶちまけた孝一にとっては何時間にも渡って針のムシロに座らされているかのように、長く、辛く、恥ずかしく感じられた時間だった。

前のページへ戻る


お問い合わせ

↑トップへ