かさじぞうさんの作品「せい子第3話」
せい子・第3話「人格破壊のツバの雨」
後ろ手に縛り上げた孝一に前を歩かせて職員室に入ると、せい子は教職員らが利用している冷蔵庫から缶入りのオレンジ・ジュースを一本取り出し、プルリングを開けながら、来客用の応接セットのソファに座ると、ゆっくりと脚を組んだ。
鋭利な刃物を連想させるスラリと伸びたその生脚の先には、いつもこの高校で普段使用している銀色というよりも金属的な光を放つシルバーメタリックと表現するほうがふさわしいであろうサンダルがあった。
そして、サンダルからさらに先に視線を伸ばすと、そこには孝一が立たされていた。
せい子は、駐車場からここまで二人で歩いてくる間、少し前かがみ気味の姿勢でしか歩くことができない孝一を見ながら、その下腹部の状態を察し、孝一をからかい、あざ笑いながら歩いて来た。
せい子からからかわれたり、あざ笑われたりすることによって、孝一の下腹部はさらに元気になってしまったために、せい子の前に立たされている今も、孝一は背筋をピンと伸ばして直立することなどできるわけがなく、少し前かがみ気味の姿勢でしか立っていることができなかった。
ソファの着座位置が低いので孝一を見上げる格好になったせい子は、ネクタイで縛ってあった孝一の後ろ手のそれを解いた。
両手を自由にされた孝一はどうすれば良いのか迷ったが、とりあえず、少し前かがみの姿勢のまま、気をつけの姿勢を保った。
「・・・・じゃあ、まず、スラックスを脱いでもらおうかな・・・・さっさと脱ぐのよ!」孝一がなりふり構わず急いでスラックスを脱ぎ去ると、一点だけがすでに盛り上がり、頂点が濡れてシミのようになっているブリーフが露わになった。
「何なのこれは?・・・・私の前で立てって言ったけど、立たせる場所がちがうじゃないの・・・・ここをおっ立てろなんて言ってないわよ!・・・背筋をピンと伸ばして直立してって言ったのよ!・・・ピンと伸ばすところが違うでしょ?」せい子は吹き出し笑いをしながら、再びネクタイで孝一を後ろ手に縛り上げながら言った。
孝一が背筋を伸ばそうとすると、スラックスを脱いで楽になったということもあって、今度は背筋をピンと伸ばして直立することはできたが、ブリーフも窮屈さから開放されたせいで、ペニスもさらに天を仰ぐことになってしまった。
そんな孝一を見ながら、せい子はしばらくの間、身体を「く」の字に曲げ、手を叩きながら相手に屈辱を与えるべく大笑いを続けた。
笑い過ぎて涙が出てきた目を擦り、それからいきり立っている孝一のペニスの下にあるフニャフニャとした陰のうの部分をブリーフの上からさすりながら言った。
「フフフフ・・・・恥ずかしい?・・・逃げてもいいのよ・・・。
でも、これはおまえが望んだことじゃない?・・・何なら受験の願書代わりのカセットテープをもう一度聞かせてあげましょうか?・・・・棄権するのはおまえの勝手だけど、願書は絶対に返さないからね!」せい子は、孝一に正座を命じ、正座させた後、さらに孝一の両足も縛った。
芸術作品のように魅力的な脚を組んで座っているせい子の前で正座をさせられ、両足を縛られた上、両手も後ろ手に縛り上げられている孝一は、もうなす術もなく黙ってせい子の足元に頭を垂れていた。
孝一には、今、目の前で起きていることや自分の置かれた立場が仮想のものなのか、現実のものなのかさえわからなくなっていた。
「いつまでも下を向いていないで、顔を上げて私の目を見なさい!」せい子は、孝一に顔を上げさせるや否や、その頬に往復ビンタを飛ばした。
「さあ!授業中、私を見ながらどんないやらしいことを考えていたのか、ここでひとつ残らず全部告白するのよ!」くらわされたビンタの強烈さにおののき、孝一は、せい子と自分以外には誰もいない、そして、誰も来ることのないこの広い密室で、観念したかのようにせい子の目を見ながらゆっくりと告白を始めた。
非日常的、非現実的な状況に置かれた孝一の目はマゾ男として自分が置かれた状況にうっとりとしながらも同時に、ひとりの良識をわきまえた社会人としての戸惑いと理性のかけらを捨てることがまだできないでいることを正直に物語っていた。
「全校集会の際、運動場に座って話を聞いていた私の斜め前にせい子様がおり、黒のレザーのタイトスカートに包まれたせい子様のお尻がちょうど私の目の高さにありました。
私は、自分が正座をし、そのまませい子様が後ろに下がってきて、正座をしている私の顔に椅子代わりに腰を掛けてくださったらどんなにいいだろう、せい子様の人間椅子となってそのお尻とレザーのスカートに征服されたい、と思いました」せい子の目を見ながらそう告白した孝一の目をしばらく覗き込んだ後、せい子は普段の状態でさえ妖艶な魅力を発している形の良いふっくらとした唇をゆっくりとすぼめ、「ぺッ!」と勢いを付けて、孝一の顔面にオレンジジュースの甘さの残るツバをたっぷりと吐きかけた。
せい子は、相手を精神的に突き落とすための手軽な手段として、相手の顔にツバを吐きかけるという責めを好んで使っていた。
せい子が初めて男性にツバを吐きかけたのは、大学4回生の時だった。
首都圏の女子大に通っていたせい子は、一人暮らしをしていた。
当時、英会話のサークルで他の大学に通う2歳年下の男性と知り合い、付き合い始めたが、その男は気が小さく、煮えきらない部分が多かったので付き合いの主導権はせい子が握っていた。
ある日、せい子の部屋で、些細なことから言い合いになり、自分の意思をはっきりと表示できない男に対して怒りが頂点に達したせい子は勢い余って、男の顔面にツバを吐きかけてしまったのだ。
そして、その時、予期していなかった、表現のしようのない素敵な快感がせい子の身体を駆け抜けた。
せい子にツバを吐きかけられて以後その男は二度とせい子の前に姿を現すことはなかった。
男の顔面にツバを吐きかけることの快感を覚えたせい子だったが、それ以来、そんなことをできる相手に出会えることなく今日まできた。
ところが、天は、せい子に孝一というマゾ男を与えた。
せい子は、今後は誰にも遠慮することなく、好きなときに好きなだけ、思う存分ツバを吐きかけることのできるタンツボのような存在を手に入れることができたのだ。
ツバを吐きかけるという責めは、孝一という一人の人間の人格と誇りと存在価値を、瞬時に、あるいはその過程を楽しみながら時間をかけてじわじわと真綿でくるむように下落させ、あるいは破壊し、屈辱を与え、かつ屈伏させるには最適な方法だった。
結果として、「ツバを吐きかけて相手に屈辱感を与え、プライドと誇りと存在価値を崩壊させ征服する」というせい子が覚えた他の何事からも得られないこの快感が、ただでさえ人並み外れていたせい子の加虐心というとてつもなく大きな爆弾の導火線に今日着けられたばかりの火の燃焼をさらに一気に加速させた。
一方、せい子からいじめられ、弄ばれ、辱められることに憧れ続けていた孝一にとって、その顔面に吐きかけられたせい子のたっぷりとした量の甘いツバのぬくもりと香りは、長い間憧れ続けてきた夢が叶った証しであった。
そして、それは同時に「教師と元教え子」という常識的な一般社会における関係を破壊し、また、二人の間で「人と人」ではなく「人と人以下」という関係を構築する第一歩としてのプロローグでもあった。
一般社会からは逸脱し、一般社会から別個独立した、せい子を絶対君主とした女王となすがままの存在価値しか与えられていない奴隷の二人だけから構成される社会が瞬時にして成立した瞬間でもあった。
孝一の、せい子の目と唇とを交互に見つめる、うっとりとしながらもどこか良識と誇りが邪魔をして戸惑いを感じさせていたその目から、今、戸惑いが消えた。
告白はまだ始まったばかり。
これから延々と続いていく・・・・・。
