かさじぞうさんの作品「せい子最終話-2」

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自分の性癖をマゾヒズムといいそのような性癖を持つ者が集うSMという世界があることを知ったのは、孝一が中学生の頃だった。

日曜日の午前中、孝一は仲の良い何人かの友達と、近所のグラウンドでよく草野球をしていた。

このグラウンドは周囲を金網のフェンスで囲まれてはいたが、フェンス自体が低いということもあり、ファウルボールはそれがフライになればフェンスの外へ飛び出てしまう確率が高かった。

フェンスの外は幅の狭い道路を挟んで一面に草むらが広がっていた。

ボールはフェンスを超えてしまうと草むらにまぎれ込んでしまうことが多く、そんな時はプレイを一時中断し、全員でボール探しをしなければなかなか見つけられないということも多かった。

ある日、フェンスの外へ飛び出したボールを探し出すため、孝一は何人かの友達と一緒に草むらの中へ入り、草をかき分けながら、あちこち探し回っていた。

「ちょっと来てみろよ」と呼ぶ友達の声に従って孝一がそこへ行ってみると、友人の足元にみかん箱程度の大きさの段ボール箱が捨てられていた。

箱は既にその中身が見えるように友達の手によって開けられていた。

中身はいわゆる「ビニ本」、つまりエロ本だった。

ビニ本は段ボール箱の中に隙間無くぎっしりと詰められていた。

このグラウンドの近くには私立大学の寮が何棟かあったので、恐らく、寮に住む学生が捨て場所に困って箱に入れて隠したままここに捨てたのかもしれない。

しかし、それが、孝一らのような性に関心を持ち始める年頃にさしかかりつつあった中学生の興味を引きつけたことは間違いなかった。

宝物の入った秘密の箱を見つけた少年らは、段ボール箱をひっくり返し、本を全部散らかすように外へ出してしまうと、各人が思い思いに本を手に取り、全員で回し読みをした。

思いがけない量のエロ本に巡り会った少年らは、これらの宝物を捨てておくわけがなく、各人が持って帰るべく本の選定を始めた。

ノーマルなセックスを内容としたエロ本に混じって、男性が女性から辱められ、弄ばれている写真や短い話で構成された写真集のようなSM本も何冊かあった。

孝一はそんな写真集に釘付けになった・・・・自分が普段夢想していた世界が、たとえモデルによる撮影だとしても実在するということが証明されたのである。

しかも、自分の夢想をはるかに上回る想像もしたことがないような責め具や女性のコスチューム、そしていろいろな責めがたくさんの写真として一冊の本になっており、そんな写真集が何冊も目の前にある・・・・孝一以外の少年は誰一人としてSM本には興味を示さなかった。

しかし、自分の憧れの世界が現存することを示すそれらの写真集と出会った孝一の視野に入っているのはSM写真集だけだった。

表紙を見ただけでその衝撃と興奮から、心臓の鼓動は爆発してしまいそうなくらい高鳴り、瞬時にして下腹部が誇張してくる興奮と衝動を理性で押さえることなどとてもできることではなかった。

しかし、それと同時に、ここには自分以外の第三者が存在しているという事実から保つことができたほんのわずかな冷静さの中で、ノーマルなセックスや女性の写真には何の興味も興奮も覚えずセックスとは異なるアブノーマルな性志向のみに興奮を覚える自分の性癖がノーマルなエロ本に興奮を隠せないでいる友達たちのそれとは違うものであるということに気付いた孝一は、ノーマルなセックスのみに興味を抱いている正常な友人たちがいる手前、自分を偽り、自分もみんなと同様にノーマルなセックスを扱ったエロ本にこそ興味があるのだという虚勢を張るため、何の関心も持てないノーマルなエロ本を何冊か選び、SM写真集は誰も貰い手がおらず、余ってしまったら仕方なく自分が貰っておくのだというふうに見せかけ、結局のところSM写真集は全冊孝一が貰った。

その日はもうボールを探し出すことも中断したまま、各自が、自分が拾得したエロ本という宝物をグローブと一緒にバッグにしまい込み、さっさと家路を急いだ。

孝一も自分が拾得した本をバッグの下の方に詰め込み、自転車で家へ向かったが、もともとノーマルなセックスを対象としたエロ本やノーマルな女性のヌード写真にはまったくといっていいほど興味も関心も持てないことは自分でもわかっていたので、家へ帰る途中でそれらの本は道端の草むらや公園のゴミ箱に捨ててしまい、家へ持ち帰ったのは女王様とマゾ男の組み合わせを対象としたSM写真集だけだった。

孝一は興奮を顔に出さないように注意しながら、何事も無かったかのようなそぶりで家に入り、自分の部屋へ入ると、ゆっくりと部屋のドアを閉め、宝物として持ち帰った何冊かのSM本を、興奮を押さえながら順番に一冊ずつ、一ページずつゆっくりと見ていった。

どのベージも隅から隅まで眺め、その結果、日々憧れていた被虐の世界における調教願望はさらに明確なものとなっていった。

どのページも女王様とマゾ男とのプレイの写真やイラストだった。

両手、両足をそれぞれ縛られブランコのような形で天井から吊るされた全裸のマゾ男の胸から腹のあたりに優雅に腰かけ、手に持った鳥の羽のようなものでマゾ男の股間をくすぐり笑顔を浮かべているボンテージ姿の若い女王様の写真、風呂場で、ぽっちゃりとした体型の女王様の裸体を、首輪をはめられ犬のようによつんばいになり口にくわえたスポンジを使って洗っている初老のマゾ男の写真、十字架に張りつけたマゾ男を笑顔でムチ打つ背の高い女王様の写真などがページをめくる度に次から次へと現れ、孝一はページをめくる手ががたがたと震えるほどの興奮を覚えた。

そして、そんな興奮をさらに上回る、孝一のその後の夢想や願望、嗜好を決定付ける衝撃的なイラストが、ある写真集に折り込みの形で付いていた・・・・金色の髪を腰に届くくらいに長く伸ばした背の高い太めの女性が二人のやせ細ったマゾ男を拘束し調教している・・・・という構図のイラストだった。

金髪の女王様は二人のマゾ男のうちの一人に顔面騎乗を施した形で椅子に腰かけていた。

女王様の巨大な尻がぴったりと隙間無く吸いついたかのように顔面を圧迫されているマゾ男は、呼吸をするだけの隙間すら与えられていないように見えた。

しかも後ろ手に縛り上げられているので、女王様に自分の意思や苦しさを伝える術のすべてを奪われているように見えた。

また、もうひとりのマゾ男は、腰かけている女王様の前に後ろ手に縛られたまま膝立ちの姿勢で立たされ、女王様の大きな右手のスラリと長い五本の指で頬を両側から押さえつけられ、無理矢理口を開かされていた。

マゾ男の表情はとても辛そうに見えたから女王様の指の力は相当のものなのだろう。

女王様はマゾ男が開けた口に向かってツバを吐きかけていた。

マゾ男らは二人とも全く抵抗することができず、金髪の女王様のなすがままにされている・・・・このイラストから孝一が受けた影響は大きく、このイラストが孝一のアブノーマルな性志向をなお一層強固なものにしたことは間違いない。

孝一の願望をビジュアル的に表現したものがこのイラストであると言っても過言ではないほどに衝撃的なイラストであり、偶然とはいえそれだけでは済まされない運命的に何かをこのイラストから感じていた。

孝一は、二人のマゾ男を自分に置き換えながら、さらに想像力でイラストの世界を膨らませながら、飽きることなく何度も何度もオナニ―を繰り返した。

草むらで見つけたSM写真集によって、自分の憧れの世界が大人の世界には実在しており、それが「SM」と呼ばれているということを知った孝一はそれをきっかけに、当時、街に数軒あった古本屋に入り浸るようになり、少ない小遣いをやりくりしながら、店番であるおばさんの軽蔑したようなまなざしや罵詈雑言などにも耐えながら、次々とSM誌を買いあさり、サド男とマゾ女の組み合わせが圧倒的に多い各誌の中にほんの数ページだけの女王様とマゾ男の写真や小説、イラストなどを見つけては、本の中からその部分をはぎ取り、中身が見えないような色の大きな封筒に入れて、宝物として、自分以外の者にはわからないよう机の引き出しの奥にしまい込んだ。

そして、ある時はお気に入りの一枚を見ながら、またある時は数枚の写真やイラストを机の上に並べてそれらを眺めながら、責められている男を自分に置き換え女王様は当時自分が憧れていた女性に置き換えて、パブロフの犬のように、被虐願望に対する条件反射として一日に5回も6回もオナニ―をするということを毎日欠かさず繰り返していた。

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